任命式
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10/03 会話文を修正しました。
5/29 改稿しました。
見た目より丈夫な扉を押し開けて中に入ると、そこに広がるのは…
右に壁、左に壁、上に天井、下に床、奥に壁そして窓。
広過ぎず、かといって狭すぎず。一人で使うには申し分のない広さの部屋。木箱が一つぽつんと佇んでいる。恐らくあれに正装が入っているんだと思う。取り敢えずちゃっちゃと着替えますか。
木箱の中身を取り出したはいいが置くところがない。床に直接は絶対やだ。ここは土足だからね。
ということで亜空間からベッドを取り出す。ついでに他の家具も出しておこうか。クローゼットに小さなテーブルと椅子二脚。因みにクローゼットには亜空間を作っている。私が普段使っている亜空間とは違う空間で、ウォークインクローゼット仕様になってるんだ。凄いでしょ。前世での憧れだったんだよね~。今世で叶えちゃいました!今はこのくらいでいいかな。
木箱から取り出した服をベッドの上に広げる。おお~!ザ・軍人!
ベッドの上に広がったのは軍服。白地に金のラインのやつ。正直言ってすぐ汚れそう。でもめっちゃ格好いいー!
シンプルなんだけど気品溢れるデザイン。何となく見覚えがあるんだよなー。……あっ!あれだ!日本海軍のやつだ!肩から紐が下がってなかったり帽子が無かったり、所々作りが違ったりするのは違うけど基本的なデザインはとても似てる。すっごくエリート感満載な気がするのは私だけかな?
他には靴とマントが入っている。靴は白の革製で金具部分は全て金。ショートブーツ丈だ。マントも同じように白地の、まるでビロードのように滑らかな布に留め具や紐部分は全て金。
……ん?マントから僅かに魔力を感じる。試しに魔力を通してみる。……ああ。守護魔法か。
恐らくだけど、守護魔法が付与されている。簡易的なものだから、後は自分でやれってことかな?聖騎士だからできるでしょ的な?でも、これで分かったことがある。このマントは多分、いや、99.9%の確率でアラクネーの糸からできてる。うん。きっとそうだ。アラクネーの糸は魔法と相性が抜群に良い。それに手触りも最高だから貴重な素材だ。
あ、そうそう。私が最初にアラクネーって言葉を聞いたとき、とある神話を思い出したんだよね。機織りで神様怒らせちゃった乙女の話ね。だから、アラクネーってもしかして人間の女性の顔があったりしますか?ってカテキョに聞いたんだよね。そうしたら、人間の女の上半身に蜘蛛の胸と腹と足をしてるって。正直ビビったよ。だって怖くない?普通に考えてさ。怪物かと思ったら、珍しいけど普通にいるんだって。
あ、話が逸れたね。っていうか、早く戻らないとラスターさん待たせっぱなしだ。
着ているローブやらをさっと脱いで亜空間に放り込む。正装に手を伸ばして手早く着替える。靴も履き替えてマントを羽織ったら……、ほら完成!空間を歪めて即席姿見を創る。
おお!どこから見ても完璧じゃん!てか騎士だね!聖騎士だね!
テンション上がってきたところで、そろそろ下に降りようかな。
部屋から出て階段を下る。すれ違った人に二度見、いや、三度見ぐらいされた。まぁ、仕方ないか。この服目立つよね。食堂に降りるとラスターさんは席について待っていてくれた。
「お待たせしました」
「大丈夫だよぉ。女の子はぁ、時間がかかるからねぇ。うん。似合ってるねぇ。何か気になることはあるぅ?」
「いえ。丁度よくて動きやすいです」
声を掛けると、やっぱりおっとりとした声が返ってきた。女の子は時間がかかるって、何かあった感じ?その言葉の時だけ若干遠い目をしていたように思ったのは私だけ?
「あ!帯剣しておいてねぇ」
言われて初めて手元にレイピアが無いのに気付く。亜空間から取り出してベルトに装着!
「じゃあ、行こうかぁ」
そう言ってラスターさんは歩きだす。どこにって?勿論玉座の間に決まってるでしょ。
★°٠*。☆٠°*。★°٠*。☆٠°*。
久し振り……。
一番最初に思ったのはこれ。私の目の前に佇む重厚感溢れる大きな扉は、公爵令嬢であった頃、何度も目にした扉。国は違うけどクヴァシル皇国の城と造りが同じだから、扉の意匠もほぼ同じ。見た瞬間にクヴァシルの城を思い出したのは仕方ないよね。
「緊張するのかなぁ?」
ラスターさんがコテッと首を傾げてくる。なんかフワッてお花が舞ったよ。花じゃなくて可愛らしいお花が。あ、勿論そう見えただけだからね?実際に舞ってたら片付けが面倒だよ。
「いえ。緊張はしない方ですから」
「えぇ~!王様だよぉ?国王様にお会いするのにぃ、緊張しないのぉ?図太いねぇ」
おう?!フワフワした口調に誤魔化されるところだったけど、今さらりと毒吐いたよね?!え?!こういう人だったの、ラスターさんって……。
「……そ、そうですかね」
顔がひきつりそうになるのを公爵令嬢クリスティーナとして培ってきた表情筋のコントロールで抑える。そんなことをしていると、侍従さんが出てきて中に入るように言ってきた。
軽く身嗜みを整えて、小さく深呼吸をする。猫装着。ここからは隙を見せる訳にはいかない。国王様の前に出るんだから。一挙手一投足を完璧にしなければならない。失敗は許されない。
侍従さんがハンドベルのような魔法具を鳴らす。鳴らすと言っても私には聞こえない。恐らく対になっている魔法具と共鳴する仕組みだと思う。数秒程して扉が開く。ゆっくりゆっくり静かに。ラスターさんは扉が開いている途中で私から離れた。ここに来る途中で中で私がすることは一通り聞いている。ここからは私一人だ。
扉が完全に開く一歩手前で扉が止まる。扉が完全に開くのは王族が通る時のみ。そこを通って中に入ると、目の前にいるのは……
『国王』じゃなくて『王族』?!
私はこんなの聞いてない。王族が四人もいるなんて…。顔を知っているのが国王様と王妃様と第二王子のセルシュヴィーン様。国王様は相変わらず威厳に道溢れているようで、王妃様はこれぞ国母といった気品に溢れている。セルシュヴィーン様はにこやかな笑みを浮かべている。けれど目が笑っていないような気がするのは気のせい……?あと一人は王女様かな。綺麗な人。
内心動揺しながらもそれは表に出さない。玉座の足元を見ながら一歩目を踏み出す。歩みは一本のライン上を流れるように進むことを意識して。無駄な動きは全て除いて。背筋は真っ直ぐ美しく。背筋が曲がるなんて言語道断。
玉座の前まで来たらそこで立ち止まる。まだ顔は上げてはいけない。すると、国王様が口を開いた。
「よく来た。メルスティア・カルファよ。面を上げよ」
ここで初めて顔を上げる。でも王族の顔を直視するのは今の私では、不敬罪には問われないけれど不敬だろう。国王様の頭のちょっと上を見るのがベスト。
「これより其方の任命式を執り行う。此れに」
国王様が自分の目の前に来るよう手で示す。静かにそこに歩いて行き、跪いて自分のレイピアを抜いて国王様に差し出す。国王様が立ち上がって私のレイピアを手に取ると、他の王族も立ち上がる。
「謙虚であれ。誠実であれ。裏切ることなく、己の品位を高め堂々と振る舞い、民を守る盾となれ民の敵を討つ矛となれ。聖騎士である身を忘れるな。国の守護の先駆であれ」
国王様はレイピアを私の肩に置きながら誓いの文句を唱える。それを終えると、次は私の番。
「我が名はメルスティア・カルファ。我が魔法は民の守護に。我が剣は民の矛に。そして永遠なる忠誠をここに。我が剣と魔力において誓いましょう」
恥ずかしくなるような文句をなんとか噛まずに言い終える。
「ケリドウェン王族の名において今ここに、汝、メルスティア・カルファを聖騎士と認めよう」
私の肩からレイピアが離れたのを感じて立ち上がる。国王様からレイピアを受け取って鞘に戻し、元いた位置へと下がる。
これで任命式は終わり。でもまだ気は抜けない。この場から離れるまでは緊張感を保たなければ。
退室の許可が出て、玉座の間から退室する。重厚な扉がゆっくりと閉まるのを見届ける。
よし!これで終わり!猫ちゃんを投げ捨てる。いや~、しかしびっくりしたよ。だって王族があんなに居るなんて思わないじゃん?てか、魔力偽装出来るようになってて良かった~!私はこの国に来る時から自分の魔力に魔力偽装をしている。これ出来てなかったら絶対ばれてたよね。
魔力は十人十色で全く同じ性格の人が存在しないように、全く同じ魔力を持つ人は存在しない。だから人の判別は魔力を見ることでも出来る。っていうか、魔力を見たら確実に判別出来るんだよね。クリスティーナの時に会っていたから魔力偽装していなかったら私がクリスティーナだとばれてたんだよ。もう100%の確率で。本当に良かった良かった。
「聖騎士メルスティア・カルファ殿?少々お時間宜しいでしょうか?」
一人で安心しきっているところで不意を突かれた。後ろから聞こえたその声は、かつて聞いた時よりは低くなっているけど、誰か、なんてすぐに分かった。猫ちゃんカムバック!
「はい。勿論でごさいます。セルシュヴィーン第二王子殿下」
振り向いたわたしの目には輝かしい微笑みを湛えたこの国の第二王子様が。
私何かやらかした……?
セルシュヴィーン参上!メルスティアどうなる?!