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エピローグ (インディ、カイザー視点)

 お久しぶりです。今回はインディ→カイザー視点です。少し長めです。


 ブックマークありがとうございます!!

「ぁあ!寝坊した!」


 ベッドから飛び起きて、タンスの一番手前にある服に素早く着替えながら階段を駆け下りる。昨日は休みだったからゆっくりしていられたけど今日は店開くんだった。ていうか母さん、起こしてくれてもいいのに。

 玄関から飛び出して店に向かって全力疾走。絶対にメルスティアが来る前に着きたい。店の近くで一旦立ち止まり呼吸を整える。呼吸が整ったので歩き出そうとしたとき、店の裏口からメルスティアが出てくるのが見えた。


────あ~ぁ、今日も一足遅かったか…。


 心の中で落胆しながら足を進める。


「メルスティア、おはよ…」


 片手を挙げて声を掛けようとすると、メルスティアは俺に気付かずに歩き去っていく。


────ん?


 今日は店が開く日。今まで一度もメルスティアは休んだことなんて無かった。でもあの方向に歩いて行くっておかしくね?だってあっちはメルスティアの家の方向だ。もしかしなくてもメルスティア今日休み?!焦って店に駆け込む。


「母さん!今メルスティアが帰って行ってたんだけどっ!!」


「そうよ。メルちゃん今日で辞めるって。」


「…は?」


 切羽詰まった俺の声とは裏腹に、落ち着いた答えが返ってくる。しかもその内容が『メルスティアが辞める』?休みじゃなくて?()()()?拍子抜けする答えが返ってきて間抜けな声が出る。いやいや、母さん。朝っぱらから洒落にならない冗談やめようよ。


「昨日の試験で聖騎士になったそうよ。すごいわよねぇ~。」


 現実…。母さんの間延びした声がそれを伝えてくる。母さんはあり得ないことを冗談にする人ではないから、メルスティアが聖騎士になったことは事実なんだろう。




★°٠*。☆٠°*。★°٠*。☆٠°*。




「…ィ…。イン…。…ディ…。インディっ!!」


 はっと我に返る。カイザーが呆れ顔で俺を見下ろしている。なんだ。カイザーか。


「なんだよ…。」


「おいおい、お前大丈夫か?ここ4日ぐらいずっと上の空だぞお前。」


 そんなの知ってる。昨日、小麦粉とふくらし粉間違えてこねそうになって、母さんから止められたばっかりだ。じと目で見返すと溜め息を吐かれた。


「どうせあいつのことだろ?仕方ねーじゃん。聖騎士だぜ?パン屋は辞めるに決まってんだろ。」


 痛いところを突いてくる。そりゃそうだ。聖騎士なんて滅多になれるものじゃない。パン屋で働くことと比べようにもならないくらい凄いことで、聖騎士になるのは当たり前のことだろう。


「分かってる。でも、頭で分かってても受け入れたくないんだ。…また手の届かない所に行く…。」


 意図せず漏れた言葉に、カイザーが黙りこむ。沈黙が漂う中、場違いと言える声が飛び込んできた。


「ヤッホー!…どうしたの?二人して辛気臭い顔してるね。」


 エミリーだ。重い空気をぶった切ってくれたのはありがたいけどな、正直に言って、本当に場違いな登場だ。多分エミリーのことだから、分かっていてやっている。分かっているならもっと違うやり方があったと思うぞ。


「見れば分かるだろ。」


 投げやりにして返せば、エミリーはキョトンとして首を傾げた。


「え?分からないんだけど。」


「「…は?」」


 エミリーからまさかの『分からない』発言だ。エミリーは情報通として通っているのに、そのエミリーが、だ。一通りざっと説明すると、エミリーは驚きの声をあげた。


「えっ?!信じられない!っていうか、私聞いてない!!メリー、聖騎士になるの?!嘘っ!」


 いや、こっちの方が信じられないから。あのエミリーが知らなかったことの方が信じられない。友達が聖騎士になることをエミリーが知らなかったなんて。店に来る客なら殆んどが知ってるぞ。


「えと…、元気出してね、インディ。じゃ、私そろそろ時間だから行かなくちゃ!」


「時間ってどうやったら分かるんだよ。ここ時計無いぜ。」


「え、勘だよ、勘。じゃね!」


 エミリーは来たときと同じかそれ以上ぐらいのハイテンションで去っていった。なんか、台風の目みたいだった。




★°٠*。☆٠°*。★°٠*。☆٠°*。




「そうそう。で、泡が出てきたら…。」


 ここ4日、ずっと見なかったメルスティアが今目の前にいる。『パンコウボ』と言うものを持ってきてくれたらしい。それで俺はその『パンコウボ』の作り方を教えてもらっているというわけだ。

 相変わらず艶やかなな濡れ羽色の髪がさらりと揺れる。肩から落ちてきた髪を耳にかける仕草が綺麗で思わず見とれてしまう。

 と、いけないいけない。今は仕事のことを教わっているんだった。

 意識を戻してメルスティアの言葉に集中する。それにしても、メルスティアはどこでこんな知識を得たんだろう。メルスティアは本の中で、と言っているけどそんな本があったらとっくに広まっているはずだろう。言及すべきか迷ったけど、これが俺たちにとってすごく重要なものには違いない。だから出所は知らなくてもいい気がしたので何も訊かずに作り方を教えてもらうことにした。


「…もう、会えないのか?」


 その言葉が気付いたときには口を突いて出てきていた。しまった、と思ったけど時すでに遅く、メルスティアは不思議そうに俺を見上げてる。これじゃ、メルスティアがパン屋に来なくなるのが寂しいって言ってるようなものじゃないか。訂正する前にメルスティアが口を開いた。


「え?会えるよ。」


 言わないでくれ…!会えないなんて聞きたくな…ん?


「あ、会える?」


「うん。だって住むところは騎士寮になるけど休みはあるし、街に出ちゃいけないって決まりないし。それにギーラさんのパンは美味しいから買いにこない訳が無いもん。」


 笑顔でそう言われた。


「良かった…!」


 自分の声が安心しているのが分かる。会えなくなるわけじゃないんだ。そう分かるとさっきまでの自分が馬鹿馬鹿しく思えてくる。


「そうだ。インディにこれは言っておかなくちゃ。インディはきっと凄いパン職人になるよ。インディって普段から努力してるよね。ギーラさんの手元を見て技術を盗んだり、配合の比率を変えたりして。」


 急にどうしたんだメルスティア。そんなに煽てても何も出ないぞ。いや、メルスティアになら何でも出るかも。

 思ったことが顔に出てたんだろう。メルスティアはクスクスと笑った。


「急に何だって顔してるね。私にとっては急じゃないんだよ。だつてインディ見てたら分かるもん。相当な努力家だって。ずっと思ってたんだよ。だからパン酵母のレシピはギーラさんじゃなくてインディに教えてる。」


 本当にどうしたんだ。そこまで言われるとまるで褒められているみたいに感じるんだけど。

 顔に熱が集中してくるのが分かる。メルスティアにこんなこと言われると照れる。


「だからさ、インディ。私は聖騎士になるから、王族とか貴族とかと接することが多くなるんだよね。そこでジルバのパン屋は一流だっていう会話が聞きたい。インディにそんなパンを作って欲しいんだ。あとね、私は好きだよ…。」


 メルスティアが言葉を止めた。目は伏せられ、頬が少し上気したようにほんのりと染まっている。

 ドクンッと音を立てて心臓が跳ねる。メルスティアが、まさか…。いや、そんなことはないはず、と心の中で否定するもやっぱりどこかで期待してしまう。そうだったらいいなと。


「インディの作るパン!」


 …やっぱりメルスティアはメルスティアだった。顔から熱が一気に引いていく。期待した俺が馬鹿でした。はい。

 やりきった感満載で笑みを浮かべるメルスティアは可愛い。いつもの丁寧な笑みじゃなくて無邪気な子供のような笑み。

 まあ、こんな顔が見れたからいっか。それにこんなメルスティアも…


「…好き、だな…。」


「インディも?自分で好きって言えるなら他の人もきっと好きって言ってくれるから!頑張ってね!」


 思わず呟いてしまった言葉は全然違う意味で解釈されてしまった。でもこれで良かったのかもしれない。もし本当の意味が伝わっていたら、こんな言い方格好悪いし、断られる可能性も大だ。


 そんな俺の心境を知らないメルスティアはまた作り方の説明を始める。


 まあ、今はこれでいいや。でもメルスティア。これからも君のことを想い続けていいですか。いつかきっとメルスティアが驚くような人間になって、この想いを伝えたいから──。




★°٠*。☆٠°*。★°٠*。☆٠°*。




「おーい、飲み行こうぜー。」


 裏口の戸を開けて呼ぶと、インディはそそくさと出てきた。


「ごめん。お待たせ。」


 普通だ。昼間まであんなに上の空だったのに今はなんともない。足取りもしっかりしていてふらふらとどこかへ行ってしまうこともなさそうだ。


────あの後何かあったのか?


「なあ、カイザー。俺決めたよ。この国一のパン職人になってやる。」


「は?」


 急に何を言い出すんだこいつは。俺に宣言してどうするんだ。落ち込みすぎて遂にネジがぶっ飛んだか?


「は?じゃねーよ。メルスティアが『ジルバのパン屋は一流だ』って言葉を城で聞きたいらしい。だから。」


 そういうことか。メルスティアが来たから元に戻ったのか。いや、寧ろ今までより良くなったか?まあ、触れないでおこう。

 しっかし、メルスティアは、あいつはすげーな。初恋の子がこの街から居なくなったのをあんなに引きずってたから、今回もヤバイんじゃねぇかと思ったが…。今回はそういうことはなさそうだし。心配する必要は無さそうだ。


「ふーん。そうか。まあ、失恋記念日だ。今日は奢ってやるよ。」


「よっ、太っ腹!(おとこ)に二言は無ぇからな?恩に着るぜ。俺は、失恋してないけどな。」


「はぁあ?!」


 俺の絶叫が茜色の空に響き渡った。

~インディのアホ毛~



Neishelia :インディ、そのアホ毛がメルス

       ティア探知機になってるって

       本当?

カイザー:本当っすよ。こいつのアホ毛、

       ピコーンってなるんすよ。


インディ:んなっ!なわけ無いだろっ!


 ピコーン!(インディのアホ毛が立った!)


Neishelia :おお!アンテナだ!(遠くにいる

       メルスティアを見つけて)本当に

       メルスティア居た…。



 結論→インディのアホ毛はメルスティア専用の

    アンテナだった。




 インディのこの設定をどこで入れるか迷って、結局後書きになりました。これでメルスティアがパン屋に来るときにインディはメルスティアに必ず会える!良かったね!


 本文の方ですが、何故かインディの恋が『秘めた想い』っぽくなってしまいました。解せぬ。インディはこんな恋をするような人じゃ無かったはずなのに…。インディの人格もなんか…。まあ、このお陰でインディはこれからパン作りにストイックになっていくという訳ですが…。いつか閑話に出来るといいなと思っています。


 最後になりましたが、思いっきり予告詐欺です。すみませんm(_ _)m 閑話はありません。エピローグでした。

 次話は次章«新米聖騎士»に入ります。プロローグはあの人視点です!誰かはお楽しみに!

 これからも宜しくお願い致します!

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