建国祭 ⒌
ブックマークありがとうございます!!
「昼食にいかがですか~!今なら出来立てですよ~!…おっ!二人分ですか!ありがとうございます!」
元気の良い張りのある声が聞こえてくる。野球場のビール売りのようだ。売ってるのはビールじゃないけど。
「どうする?お昼買いに行ったら席取られちゃうかもだし。あれでいい?」
そろそろ私もお腹が空いてきていた。お昼を買いに行っている間に席がなくなってたら困るから、あれにしようかな。
「ん。あれにしよう。でも出来立てって何だろうね。」
「えっ…!知らないの?あぁ、メリーってここ来たばっかりだもんね。仕方ないか。フフン。じゃあ、買ってからのお楽しみってことで!」
勿体ぶって言わないエミリー。そう言われると気になる。売り子さんが近づいて来た。
「すみませ~ん!二人分くださ~い!」
エミリーが手をビシッと挙げて呼ぶ。ついでに手を振るから売り子さんはすぐに気がついてくれたみたいで、真っ直ぐこちらにやって来た。
「はいは~い!二人分ですね。小銀貨二枚です!」
エミリーが小銀貨二枚を渡す。
「熱々だから気をつけてくださいね。どうぞ。」
そう言って渡された袋を二つ受け取って片方をエミリーに渡す。何だろう。匂いからしてアメリカンドッグみたいなものかな?取り敢えず良い匂いがする。
「エミリー、私の分の銀貨ね。はい。」
「いいよいいよ~!今日はお父さんがお小遣いくれたんだ。二人で楽しんできなって。だから今日は驕りってことで!」
私が差し出した手を押し退けながら言われる。ちょっと戸惑ってからありがたく驕ってもらうことにした。
「で、これは何なの?芳ばしい匂いがするんだけど。ね、開けて良い?」
ちょっとワクワクしながらエミリーを見る。エミリーは私をチラリと見るとおもむろに袋の中に手を突っ込んで何かを取り出した。
「たったら~!建国祭限定ホットボール!」
「そんままじゃん!」
つい突っ込んでしまった。考える間もなく口をついて出てきてしまった。だって、取り出したものはアメリカンドッグの持ち手がないボール状のもの。温めてある。温かい球状の食べ物。ホットボール。そんままじゃん!何で?!誰も名前捻ろうとしなかったの?!ショボッ!
「メリー、ショボくない。それ言っちゃダメなやつ。」
おぅふ。途中から心の声駄々もれだったみたい。やっちゃったよ。ハハッ。
「ま、良いから食べてみてよ。味っていうか中身が凄いんだから。ショボくないよ。…味は。」
最後だけぼそりと呟くエミリー。やっぱり名前はショボいって思ってるんだね。私は苦笑いを浮かべて袋からホットボールとやらをひとつ取り出して食べる。
────…ん?!何か入ってる?!
驚いてばっと顔を上げる。そこにはしたり顔のエミリーがいる。まさか中に冷たいフルーツが入ってるなんて思うわけがない。これは驚くに決まってる。私が目を見開いていると…。
「ね。凄いでしょ。騙されたでしょ。フフン。」
「はい、騙されました。私の完敗です。…なにこれ。凄いんだけど。えっ、焼き立ての中に冷たいフルーツって。えっ、あ、えっ?!」
只今動揺しております、メルスティアです。だって仕方ないでしょ?どうやってこんなの作るの~?!どんな技術なのこれ。
エミリーはそんな私をしたり顔で見ている。
────うぅっ…。観念しましたから~!エミリーさ~ん!
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『──それでは皆様、そろそろお腹も膨れてきた頃でございましょうか。次に移りたいと思います。今回もこれが一番の楽しみとしていらっしゃった方も多いことではないでしょうか。それもそのはず。ケリドウェン一の騎士を決める決闘です!!今年の挑戦者はセルシュヴィーン王子殿下の近衛、聖騎士ジルベルト٠プリアモス!!迎え撃つは現在ケリドウェンの頂点に立つ大総帥、国王陛下の近衛、聖騎士カルステッド٠ブライト!!
ジルベルト٠プリアモスは18にして聖騎士となった天才騎士。それに加え、プリアモス公爵家の四男であり、その美貌と繰り出す魔法から«氷の貴公子»と呼ばれるように。
カルステッド٠ブライト様はこの国の国民ならば知らない者はいないはず。彼の右に出る者はいないと謳われる最強の聖騎士、«炎雷の王»。斯く言う私も尊敬して止まないお方です。
…ん?話が反れてる?少しぐらい良いではないですか。
制限時間は17の鐘が鳴るまで。大総帥様がプリアモスから勝ちを取るか時間いっぱい守りきれば大総帥様の勝利。プリアモスが大総帥様から勝ちを取ればプリアモスの勝利となります。
今年はどの様な闘いが繰り広げられるのでしょうか。瞬きは厳禁ですよ?それでは始めましょう!』
司会が出てくる。やっぱり打ち合わせしてないよね~。二人の会話を拡大魔法で流すのはやめようよ。
っていうかジルベルト様?さん?さんで良いや。ジルベルトさんの二つ名だよねあれ。«氷の貴公子»ってさ、ベタだよ!ベタ過ぎるよ!オーソドックスだからそれ。フツーだね!どうせあれでしょ?使うのは水属性で上級魔法の氷でしょ。しかも笑わないクールキャラだな?フッフッフッ。私には分かるのだよ。なぜなら…。
そんなキャラ沢山見てきたからね!!
推しにそういうキャラいたしな~。たまに笑ったらすっごい甘~い笑みでさ。腰砕けるぐらいの破壊力の。ちょっと見てみたいかも。
それに大総帥様?って火属性と光属性か。二つ持ちね。珍しい。あっ、全属性持ちが言うことじゃないか。テヘッ!っていうか«炎雷の王»か。どんな戦い方するんだろ。参考になるかな。
あれこれと思いを巡らせていると、ジルベルトさんと大総帥様が舞台に出てきた。
うわっ。最初から纏うオーラが違う。もう一触即発って感じ。普通の人は直に食らってたら泡吹いて倒れるよ。でも倒れてないってことは結界が…?…ああ、そういうことか。初っぱなに女性の宮廷魔法使いが打ち上げた光はただの演出じゃなかったんだ。結界も張ってたのか。道理でね…。
一人で納得していると舞台上で二人が向き合い剣を抜き、構える。その一連の洗練された動作だけで二人の力量が窺える。会場の空気が今までに無いほど張り詰める。音を立ててはいけない。髪の毛の一本でも動いてはいけない。息をしてはいけない。本能的にそう思ってしまう。緊張感なんて域を遥かに越えている。息を飲むことも許されない。自分の心臓の音がやけに煩く感じる。
無風だった会場に一陣の風が吹き込む。それが合図だった。二人の腰が一瞬下がった…、と思った次の瞬間ギィィン!と剣がぶつかり合う。剣が接するところを中心に旋風が巻き起こる。
二人は微動だにしない。互いに力を込めているのは分かる。でも互角なのだろうか。ミリ単位でさえ動いていない気がする。
いや、違う。大総帥様の方が押している。でも、手を抜いている…?まだ余裕がありそうだ。ジルベルトさんの方はどうだろう。涼しい顔をしてる。一見力が入っていないように見えるけど、かなり力が込められている腕は僅かに震えている。
どれぐらいたっただろうか。突然ジルベルトさんの剣から爆発するように氷が生成され、お互いに後方へ飛び退く。氷山とも言えるそれは大総帥様に届くかと思われたところで霧散する。私は軽く目を見張った。舞台の半分程の大きさだったそれが瞬きをする間もなく霧散したのだ。驚いて大総帥様を見ると手にする剣は赤く煌めく炎を纏っていた。氷を蒸発させたのだ。
大総帥様がその剣を一振りすると炎の獅子がジルベルトさん目掛けて駆け出す。鬼気迫る勢い。それに戸惑うことなくジルベルトさんはすっと手を向ける。キンッと澄んだ音がして炎の獅子が凍りつき、ジルベルトさんが手を握るとバラバラと砕け落ちる。
それを皮切りに激しい目にも止まらぬ打ち合いが繰り広げられる。その合間合間に氷が飛び出したり炎が渦巻いたり落雷があったりと魔法が放たれる。
私は夢中になってのめり込んだ。目が離せなかった。身体強化で動体視力を極限まで引き上げすべての動きを目に焼き付ける。時間がたつのなんて分からなかった。
途中、空中戦にもなり、目の前で闘いが行われた。ジルベルトさんがこちら側に近づくと冷気が漂い、目の前の手すりが霜に覆われた。大総帥様が近づいた時には灼熱地獄のような熱気が襲ってきた。
まるで生き物のようにうねりながらジルベルトさんを追撃する雷を纏わせた炎。空間を氷付けにしてしまいそうな勢いで大総帥様に迫る氷の波。
全てに圧倒され、魅了されながら私はその決闘に見入っていた。
やがて一本の大きな剣が宙を舞った。それは深く地面に突き刺さる。
決着がついたのだ──……。
少し切りが悪い気がしますがご了承ください。それより本当に建国祭長いです。こんなに長引くはずじゃなかったのに(泣)
つっ、次で終わらせます!(多分…きっと…)
まあ、それは一旦置いておいて…。不憫なインディ第二段をどうぞ!!
~ボッチな俺の建国祭 Part2~
「はい、あ~ん!」
「…ん!美味しいよ!じゃあ、お前も。ほら、あ~ん。」
…。今の俺の状況をお察しだろうか。俺の後ろにはなんとバカップルが座っていたのだ。正直言ってやめてほしい。今一人寂しくホットボールを食べている俺が虚しくなるじゃないか…。しかもあの売り子たちときたら…。
──数分前──
「ねえ、見た?あっちでね、すっごい美人さん見たの。艶っ艶の黒髪で、あんな綺麗な瞳ってそうそういないと思うんだよね~。」
「あっ、見たよ!お人形みたいだったよね。あんな白いレースのワンピが似合うって良いよね~。私もあんなの着てみた~い!」
「絶対彼氏いるよね。すっごいイケメンだと思うよ。あんな子は絶対放って置かれないに決まってるもん。」
「だよね~!」
とまあ、そんな会話をしていた売り子たち。それってどう考えてもメルスティアのことじゃないか!ううっ。俺も間近で見たかった…。こんなバカップルの前なんて座るべきじゃなかった…。あの会話を聞いた後にこの仕打ちなんて…。
「ああ、こんなところに食べ滓が付いてるよ。俺が食べてあげる。」
「っ!ちょっと!人前でそんな…。」
「良いじゃん。ちょっとしたキスぐらい。可愛い食べ方してるお前も一緒に食べたくなってね?な~んて。」
────ぐっ…!
バカップルに最後の留目を刺されたインディであった。
ちゃんちゃん!