また、次の夜
また夜である。
降り出した雨は夜半になっても止むことはなく、だんだん強くなるようだった。
幽霊も雨に濡れるのだろうか。彦四郎は思った。
ごろごろと雷もなりだし、激しい雨音と雷の音で、時の鐘の音も聞こえない。もっとも、この天気では鐘など打つ人などいないだろうけど。
いったい今は何時なのだろう。
彦四郎は眠らずに、時のくるのを待っていた。
しかし、知らぬ間にうつらうつらとしていたようだ。
どれだけ時間が経ったのだろう。
いやな気配で目が覚めた。
暗闇の中、目を開けると、案の定、女の顔が目の前にあった。
急なことで驚いた。 だが、彦四郎も武士のはしくれ。みっともない所ばかりを、いくら幽霊だからといって見せてばかりいられない。
叫ぶ所をぐっとこらえて睨み返す。
そうなると、もう恐ろしさなど感じなかった。
(おれの寝顔をじっと見ていたのだろうか。いやなやつだ)
気持ちの余裕もできて、そんなことを考えた。
しかし、この女初めて見た時からそう思っていたが、もっとよく見るとなるほど、美しい顔立ちをしている。
目はややつり目だが、大き過ぎず小さ過ぎず。少しちいさめの鼻だが鼻筋は通っているし、唇はふっくらとしていて、情があつそうだ。
微笑めば誰からも好かれるような人相をしている。
こんな娘が幽霊にならなければいけない、どんな理由があったのだろうか。
考えるとあわれである。
悲しそうな目で何を思っているのか。
彦四郎は同情した。同情心から女に優しくしてやりたいと思った。
彦四郎は幽霊に微笑んだ。
すると、女がかっと目を見開いた。
次の瞬間彦四郎は雷に打たれたように体がしびれて、またしても気絶してしまった。