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次の朝
目が覚めると朝だった。
気分はよかった。
今朝も、ちゃんと敷かれた布団で寝ていて、掛け布団も掛けられていた。
子供たちの遊ぶ楽しそうな声が、外から聞こえている。
おれはいったい。
昨夜と同じく、女が出て行った後のことを全く憶えていない。
確かに布団は畳んだはずなのに、いつの間にひいたのか。布団に入った記憶もない。
横になったまま彦四郎は少しの間、考えていた。
近所のおかみさんが作る朝食の味噌汁の匂いが、部屋の中に入ってきた。
すると、彦四郎は急に空腹を覚えた。
(腹が減った。何か食わねば)
考えても思い出せぬことを考えてもしかたがない。
彦四郎は手際よく布団を畳むと、着物を着替えた。
そばでも食ってから口入屋に寄ってみよう。夕方に傘屋に傘を持っていって、その金で酒でも買おう。
そして、夜は・・・。
大丈夫だ。もう、怖くはない。
彦四郎は腹を据えて、一人大きく頷いた。