ひとりぼっち
次の日、彦四郎は仕事を休んだ。
体はだるく、熱も下がらず仕事ができる状態ではなかった。
昼過ぎに留吉が心配して来てくれた。
「どうした? 今度は風邪か? いろいろ忙しいやつだな」
留吉が笑って言った。
「たいしたことはない。もうほとんどいいのだが、今日は大事を取って休んだのだ」
彦四郎はつらいのを無理して起き上がって笑ってみせた。
「顔色が悪いぜ。起きるな。寝てろ」
留吉に促されて、彦四郎は横になった。
「医者には?」
「いいや、医者に見せるほどのこともない」
「飯は食ったか?」
「いや、いいのだ」
「食わなきゃ風邪が治らないぜ。ほら、これ食え。握り飯だ」
留吉が笹の葉に包まれたおのぎりを、枕元に置いた。
「後で頂こう」
「じゃあ、おれは行くよ」
「ああ」
「大事にな」
「ありがとう」
留吉は帰って行った。
留吉は本当にいいやつだ。彦四郎は思った。
*
夕方になり、夜になった。
彦四郎はずっと布団に横たわったまま、荒い息をして目を閉じていた。
(このまま死ねたら・・・)
また、そんな考えがうかんだ。
いや、おれにはまだ寿命があるのだ。待っている者のいるのだ。
「ははははは・・・」
彦四郎は声を出して笑った。
(おれはひとりぼっちだ)
生まれて初めて、心の底から寂しいと思った夜だった。




