留吉
「大丈夫かい?」
一緒に仕事をしている仲間の留吉が話しかけてきた。
留吉は彦四郎が初めて仕事にきた時から、何もわからない彦四郎に色々と教えてくれた気のいいやつで、今も何かと気にかけてくれる。
「この頃、疲れがたまっているんじゃないのかい? 顔色も悪いし、何だかしんどそうだ」
今は、午前の休憩中で、彦四郎は作りかけの家を眺めながら寝転んでいるところだった。
「ほい」
そう言って留吉は湯飲みを差し出した。
「ありがとう」
起き上がって湯飲みを受け取り、彦四郎は言った。
「近頃あまり寝ていないせいかな」
「女か?」
留吉がにやりと笑って言った。
「まあ・・、そうだ」
めっきり朝晩寒くなった季節。夜明けは遅いし、日暮れは早い。休む時間はたくさんあるはずだったが、彦四郎の睡眠時間は減っていた。
かんざしをおように買ってやったあの夜の一件以来、彦四郎は毎夜、おように会いたいと思った。
いつか、おようとは会えなくなる。そう思うと一時でも会える時に会っておきたいと、彦四郎は思うのだ。
仕事にもずいぶん慣れたし、体も楽になってきた。夕方早く帰って眠れば、夜中に起きるのはむずかしくないはず。
そう、思った。そうは思っても、夜中に目を覚ますことができるのか気がかりで、すぐには眠れなくなった。やっと、うとうとしたところで夜八つの鐘が鳴る。
近頃はこんな具合だった。
「ほどほどにな。でねえと、体がもたないぜ」
留吉がからかうように言った。
「今度、会わせろ」
「ああ、いつかな」
彦四郎は笑って言った」




