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8/12

 その日は学園の敷地内にある訓練所で、組手が行われていた。

 ただ、リュウはいつものごとく殴られていたが。

 彼なら痛めつけても良いという暗黙の了解ができているのだ。

 見学という名目で、アストラとテディールの他にもスカウトの人間が訓練所を訪れて、目ぼしい人材はいないかと品定めをしている。

 アストラとテディール以外には、リュウはカスに見えている事だろう。

 しかし、アストラ達は違う。

 何故なら、彼の価値の片鱗を知っているからだ。

 どんなに成績優秀者がいても、軽く霞んでしまう程度のことを彼らは監視で知っていた。

 リュウは組手相手にぶっ飛ばされ、そのまま地面に転がる。

 無様なリュウを見てヘラヘラ笑っている。

 クラスメイト、全員が見下して笑っている。

 と、一人だけ泣きそうな顔をしている少女がいた。

 レミ・クルティカ。

 魔族襲撃事件の生き残りの一人である。

 金色の髪に空色の瞳、肌は傷一つない人形のように白い。

 成績は、このクラスの中ではトップである。

 あのドリッガーよりも優秀な少女だ。

 その少女が、瞳に涙をためてリュウを見ていた。

 助けに行きたくて、でも出来ない。

 そんな表情をしている。

 地面に転がったリュウがピクリとも動かない事に、いち早く気づいたのも生徒の中ではレミだけだった。

 思わず、彼女は駆け寄りリュウへ声をかける。彼の事を本気で心配しているようだ。

 それから教員に、リュウを保健室へ運んで手当てするよう申し出る。

 許可はすぐに出た。

 しかし、他の生徒達からの野次が酷くなる。

 もちろん、リュウへの野次だ。


 「大袈裟なんだよ」


 「レミ、そんな落ちこぼれ放っておけよ」


 「そうそう、体だけは頑丈なんだ転がしておけばすぐに復活するって」


 「そもそも死んだって誰も気にも止めないからさ」


 なんていうクラスメイトの言葉に、彼女はキッと周囲を睨み付けた。


 「うるさいっ!」


 それだけ、叫ぶように言うと意識を取り戻したらしいリュウをゆっくりと立たせ、二人で訓練所を出ていった。

 アストラ達も二人を追いかけるため訓練所を後にした。


ーーーーーー……


 「ねぇ、何で?

どうして、リュウ君は強いのに、こんなこと続けるの?」


 保健室に向かう途中、リュウとレミの会話が聞こえてくる。

 授業中で誰もいない静かな廊下に、空き教室だけが続く廊下にレミの声が響く。


 「魔族を倒せちゃうくらい強いのに。

どうして、隠すの?」


 「なんの話だ?」


 「惚けないで、アタシを助けてくれたのはリュウ君だよ。

アタシ、覚えてるもん」


 「何かを見間違えたか、脳ミソが勝手に記憶を改竄したんだ。

俺が魔族を倒せるほど強いわけないだろ」


 「そんな事ない。

アタシ、覚えてるもん。

リュウ君が黒い剣で、アタシと」


 「だから違うって」


 「ファーゼルさんを助けてくれたの、覚えてるもん」

 

 そこで、二人は立ち止まる。

 リュウが優しく、まるで幼児に言い聞かせるように言った。


 「レミ、俺は黒い剣なんて持ってないし。あの騒動でお前達を助けたのは異国の適合者って話だろ?

実際、俺とお前はどちらかが適合者じゃないかって疑われて精密検査までされてるんだ。部屋も、家宅捜査されただろ。

結果はどうだった?」


 「それは、でも、でも」


 「あの現場には俺達と襲ってきた魔族と、そして助けてくれた適合者がいた。それだけだ。そして俺は適合者じゃない。お前も、ファーゼルもな」


 リュウ達を尾行していたアストラ達に、わざと聞かせるようにリュウは言う。


 「だけど、アタシはっ」


 そこで、少しだけリュウが痛がる素振りをした。

 それで二人の会話は終わった。

 しかし、二人の会話を聞いていたアストラは、にんまりと笑ってレミを見た。




 



 


 



 





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