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捜査資料は意外にもすぐ手に入った。
魔族の襲撃を受けそれを倒した存在がいる。
それなら、自国で調査して魔族を倒した人間を戦力として引き入れたいと考えるのが普通だろう。
しかし、ルルガ皇国の軍部が調査しても、それが誰なのか結局わからず終いだった。
滞在のために用意された部屋にて、アストラとテディールは襲撃事件のあった場所の地図をもらい、そして捜査資料、現場検証の書類と照らし合わせる。
恐らく、他国の人間に探させるために捜査資料を開示しているのだろう。
スカウトの人間がそれらしき人物と接触したら横取りする気なのだ。
しかし、そんなことは今はどうでもいい。
テーブルに広げた地図は、魔物が多く棲む北に広がる樹海だ。
「捜査資料によると、現場には複数の生徒たちが居合わせたそうです。
まず、居合わせた生徒は全部で二十名。五人ずつで班を組んで行動していたらしいです。そのうち十七名が魔族の攻撃により死亡。
残ったのは、ファーゼル・ハミルトン、女、二十歳。
レミ・クルティカ、女、十三歳。
そして、リュウ・ソードウェル、男、十五歳。
以上三名です。
事件後、軍部による事情聴取が行われましたが、ファーゼルは一連の事件の精神的ショックが大きくいまだに入院中で、話が聞ける状態ではないとのことで事情聴取を受けていません。レミは必死に逃げ回って助かったとの事です。
そして、リュウ・ソードウェルの証言も似たようなもので、魔族の襲撃から逃げる途中で転んで頭を打って気絶したので覚えていないと言うことでした」
殺戮者の攻撃らしきものは、離れた場所にいた教師陣と他の生徒が目撃している。
位置関係を把握するため、適当にペンとインクの入った小瓶を置く。
「教師陣がここにいて、襲撃場所がここ。
で、教師陣や他の生徒達が見た、閃光が走った場所がここ。
こうして見ると、襲撃場所と殺戮者の攻撃が行われた場所は同じってわかるな」
しかし、こんな事、軍も調査済みだろう。
「魔族の遺体はどうなったんだ?」
「バラバラになってたのを軍が回収したらしいです」
「なるほど」
「で、こっちがリュウ・ソードウェルの経歴です」
「見事に不明、か」
「はい。幻術が使えるなら、どこかにたとえ偽名を使っていようとも痕跡が残るはずなんですけど、彼の場合全く出てきませんでした。
彼がこの国に来る前、学園に入学する前の経歴は一切不明です」
なにしろ、幻術使いは捕虜から情報を引き出すのにうってつけだ。
拷問にも使える。だから、一流の幻術使いが拷問を行えばうっかり殺してしまうと言うことも低い。
そして、そんな幻術使いを育てた場合、どこかしらに所属していた痕跡が残るはずなのだ。
「でも、あれだけの使い手だ。学生にしておくのは惜しいと思わないか?」
「ですね。最悪、殺戮者の代わりに彼を引き抜くというのもありなんじゃないですか?
それに、頭うって気絶してたってことは、ニアミスしてた可能性も高いし」
適合者発見用のアイテムにより、リュウが殺戮者である可能性は完全に否定されている。
しかし、思わぬ所で意外な人材を見つけた。
「だな。しかし、本当に気絶してたと思うか?」
「まさか。
あれから何度かバイト先に行ったり、学園外での行動を観察してましたけど。彼、なかなかの実力者ですよ。ふとしたときの身のこなしが訓練を受けた人間のそれですもん。
でもまぁ彼の引き抜きは大賛成ですよ。
そうすれば毎日ご飯作ってもらえますからね」
部下は完全に胃袋を握られたようだ。