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それは、神話の時代のお話しです。
昔々のお話しです。
昔々、ヒトが造られるよりも、この大陸が創られるよりも、ずっとずっと昔のお話しです。
まだこの世界が神々の国にあった頃。
平和で愛が溢れていた神様の国に、新しい神様が生まれました。
その神様は、他の神様と違いました。
破壊と殺戮と、そして死を振り撒く神様でした。
今まで生まれたことのない、神様に他の神様達は戸惑いました。
自分達とは明らかに違う、異質なその神様はあっという間に嫌われてしまいました。
なぜなら、死をふり撒くから。
なぜなら、不和をふり撒くから。
なぜなら、破壊をふり撒くから。
なぜなら、殺戮をふり撒くから。
なぜなら、皆と違うから。
平和と平穏を壊してしまう神様に皆が怯えました。
皆が、その神様を嫌いました。
そして、皆から、他の神様から嫌われた異質な神様は。
孤独を。
永遠の孤独を過ごすことになったのでした。
***
旧時代。
失われた古代文明は、魔法技術がとても発達していたらしい。
その文明が消えたのは、争いが起こったからだと伝えられている。
伝説なので確認のしようがないが、子供に読み聞かせるお伽噺の元ネタである伝説を信じるならば、争いの絶えない人間達に神様が怒って天罰を下したらしい。
何年も雨がふり続いてそれまでの文明を洗い流し、また一から歴史が始まったらしい。
伝説の一部、古代文明の魔法技術が優れていたことについては、それだけは遺物が発掘されたことで証明された。
殆どが武器の形で、その遺物は現代へ掘り起こされた。
ただ古代魔法遺物であるそれは、誰でも使えるというわけではない。
適合した人間ーー遺物に選ばれた人間でないと使えないのだ。
どういう基準で選ばれるのか、適合できるのか、いまだにわかっていない。
しかし戦争をする国にとっては、これはとても良い兵器だった。
適合者は各国の諜報機関が見つけ出し連れてこられ、それぞれの国で飼われ、兵器として使われる。
大陸最凶の殺戮者と異名を持つ彼も、そんな人間の一人だった。
そう、少なくともインフェルノ帝国を抜けるなんてことは許されない程の性能を持った兵器。
そんな彼が、彼の国を抜けたのには相応の理由があるのだろうと推測できる。
例えば、扱いに不満があったとかだ。
兵器と呼ばれようと相手は人だ。
どんなに、道具として扱われようと適合者達は人なのだ。
しかし、適合者を保有する国の殆どが彼等の事を人として見ていない。
ただの道具として見ている。
兵器として扱っている。
それが現実だった。
仕方ない、現実だった。
何故なら、適合者は、そうわかった時点で人には見られないのだから。
ニンゲンとは違う、バケモノ
大多数の人が使えないものが使える。
死を振り撒くことができる、異質な存在。
過酷な、常に死と隣り合わせの状況におかれ、遺物の力を暴走させた例も少なくない。
適合者の精神状態は、遺物の使用に大きく関わってくるからだ。
実際、壊れた適合者も少なくない。
しかし、扱いは変わらない。
彼らは道具であり、兵器なのだ。
そこに、人らしさは求められていない。
「だからこそ、人権その他諸々厚待遇を明記した契約書も用意して、準備万端で来たのになんで見つからないんだか」
アストラは、いまだ目的の人物を見つけられずにいた。
「よっぽどかくれんぼが上手なんすね」
二人がいるのは、学園から用意してもらった寝泊まりようの部屋である。
アストラが手元の書類を見ながら頭を抱える横で、補佐の青年ーーテディールが売店で買ったジュースを飲みながら答えた。ちなみに、テディールの方が年上の十八歳である。
アストラが見ている書類は、それらしい人物達の情報が書かれている。
さらに、彼らがこの学園に来てからもう何人か有望な人材を見つけたので、その情報も載っている。
目的の人物でなくても、彼等の所属する国はとにかく仕事のできる人間を欲していた。
と言うのも、アストラ達が所属する国は三年ほど前に革命が起き、王が更迭され新しい王が玉座についたのだ。
ついでに、と国の名前まで変わってしまった。
フィルメント王国、と言うのが今の彼等の故郷の名前である。
新興国家なので、とにかく人手不足なのだ。
近年、大人しかった魔族達も騒がしく、人と魔の区別なく小競り合いや戦争が多くなった。
人同士でも殺しあい、魔族とも殺しあう時代である。
新興国家であるフィルメント王国は身分や育ちに関係なく有能な人材をとにかくかき集めていた。
永世中立を貫くルルガ皇国のこの総合学園は、そう言った人材を確保するのにとても役立っていた。
実際、アストラ以外の他国の軍部関係者も有望そうな人材を探しにきている。
「もしくは、情報がガセだったか」
「それは無いと思いますよ。もしかしたら生徒じゃなくて教師の方か、あるいは特別講師だった可能性もあります」
「それは、ない。教師達の身元は全て完璧だった。
成績上位の者の大半は、身元が確認できる者達ばかりだ。身元が確認できない者を中心に調べたが、適合者はいなかった」
「そう言えば、適合者ってどうやって調べるんすか?」
「これを使ってる」
アストラが取り出したのは、小さな板だった。
「なんです? これ?」
「フィルメント王国の魔法技術研究所が作った適合者を見つける便利アイテム」
捜している適合者は、遺物を所有している。
近年の研究の成果で、遺物から微量だが特殊な波動が出ていることがわかった。
それを感知できる魔法道具らしい。
遺物を持った人間に対して翳せば、この板は発光するらしい。
何人か、可能性のある人物を呼び出して検査したが、今のところ反応はなかった。
「でも、いなかったんすよね?」
テディールの言葉に、アストラは大きく息を吐き出した。
そう、いなかった。
候補者達は全員外れだった。
「このままだと、しらみ潰しになるなぁ」
アストラの言葉に、テディールがとても嫌そうな顔になった。
そんなテディールが、先程からパクパク食べているものがある。
焼き菓子だ。
紙袋に入ったそれは、シンプルな物から、砕かれたナッツやチョコチップが混ぜこまれたものと三種類あった。
「さすがルルガ皇国。傭兵国家は違うなぁ」
少し皮肉を込めて、アストラは呟いた。
この戦時中でもありながら、ルルガ皇国が平和を維持しているのはインフェルノ帝国と並ぶ軍事力にあった。
外国から助けを求められれば、兵を出す。それをビジネスとしてきたのだ。
有能な人材を、他国へ貸出、見返りを受ける。それは金銭だったりルルガ皇国にとって有利な協定の締結だったりだ。
一度、その協定を無視し、掌を返して攻め混んだ国があった。
決して弱い国ではなかった。
しかし、圧倒的な力をもってルルガ皇国はその国を滅ぼしてしまった。
他国へ貸し与えていた兵力など、それこそこの国の欠片でしかなかったのだ。
だからこそ、平和が保てる。
この国にもお抱えの適合者がいるのだろうし。
作り出された平和な世界では、他国では貴族しか口にすることができない甘味も、テディールが食べているように簡単に、手頃な値段てに入ってしまう。
「あ、これですか?
この前、虐められてた子を助けたら貰ったんですよ!
一口食べただけで、もうこの味が忘れられなくて、今は自分からお願いして作ってもらってるんです」
虐め、と聞いてアストラはすぐにピンときた。
「リュウ・ソードウェルか」
「あ、知ってたんすね」
「この学園では有名だからな」
リュウ・ソードウェル、総合学園始まって以来の落ちこぼれ。
座学と実技、両方成績は最下位。
学費を稼ぐために、夜は休みなく働いている苦学生だ。
働きながら通う学生は少ない。
と言うのも、実技演習の一環として、彼らーー主に専攻で戦闘系の授業を取っている生徒は戦場へ駆り出されることがあるからだ。
そうすると、お小遣い程度の金が入ってくるし、貢献度によっては学費が免除になる。
しかし、彼には必要最低限の奨学金しか入ってこず、また成績も最下位を理由に本来入るはずのお小遣いすら、チームメイト達にとられている始末である。
こう言ってはなんだが、どうして戦闘系の授業をとっているのか不思議でならない。
成績が最下位なのは、アルバイトをしているから時間が足りないから勉強が出来ないのはわかる。
しかし、そもそも戦うこと事態に向いていない気がする。
人間、ある程度訓練を受けたらそこそこのところまで行けるのだ。
しかし、彼は同級生の拳すら顔面で受けるほど動きが鈍い。
そもそも、素質が皆無なのだろうと思う。
「食べます?」
「貰う」
一枚もらって口の中に放り込む。
「な、なんだ、これ!?」
「美味しいですよね~。大通りにある菓子店とあと酒場と裏通りにある喫茶店でも働いてるらしくって、そこで覚えさせられたらしいっす。料理の腕はプロ顔負け。性格も悪くない。むしろとっても優しいんです! 男じゃなかったら口説き落として嫁にしてましたね!
顔も、よく見るとまだ中性的で可愛い顔してるし。
なんで男なんだろ」
この部下は何をやってるんだろう?
「今度お弁当作って貰う約束してるんですよ」
聞いてねーよ!
そうツッコミを入れる代わりに、頭をペシンと叩いた。
「あ、もちろんお金は払いますよ。
これも経費削減です。ここの学食で定食頼むよりも安くて美味しいし。材料代にイロをつけて渡してるんですよ!」
テディールは節約、そしてリュウはお小遣い稼ぎができるというわけだ。
いや、まぁ確かにこれだけの味を出せるのだ。
料理にも期待するなと言うのが無理である。
「今日は、酒場にいるらしいんで、夜食べに行く予定なんですよ。
アストラさんも来ます?」
確かにたまには外に出た方が良いのかもしれない。
仕事は行き詰まってるし、息抜きは必要だ。
酒は飲めないが、料理の品数もテディールの話を聞く限りでは多そうだ。