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 十年後。

 

 その蹴りは、あまりにも速い。

 彼は避けきれなくてそのままくらってしまう。

 

 「この愚図がっ!」


 浴びせられる罵声に、彼は気弱にヘラヘラ笑って返す。


 「す、すみません」


 そんな彼を、同級生達は見下してくる。

 彼の名前はリュウ。

 リュウ・ソードウェル。黒髪黒目、何処にでもいる平々凡々な容姿。

 様々な職業を目指す者を育てる大陸で唯一の総合学園の生徒である。

 リュウを蹴飛ばしたのも同じクラスの生徒だ。

 名前は、ドリッガー。それが姓なのか名前なのかはリュウは知らない。

 皆が彼の事をそう呼ぶから、リュウも知っているだけだ。

 今日は、実技訓練の日で国の外で魔物を討伐する授業だった。

 その授業は四人ずつに班を組んでの訓練で、彼は、落ちこぼれのリュウはいつものように荷物持ちをさせられていた。

 この学校に限らず、どこでもそうだがかならずはみ出しものはいる。

 ただ、この学校だとそれが彼だったと言うだけだ。

 才能がない、魔法が使えない、まともに体術すら使えない。そして何においても愚鈍。

 使えない人間。

 つまり、底辺なのだ。

 そう、一番下。

 どうあがいても、普通にすらなれない。

 【普通】に到達できない、地面を這いつくばる蛆虫。それがリュウだった。

 蛆虫で、おそらくこの学校で唯一の底辺である彼は、皆からの嫌われものだった。

 だから、授業でもこうしたチームでの行動でもすぐにあぶれてしまう。

 それを表向きは、人当たりの良い人気者で優秀、ついでに容姿端麗のドリッガーが仲間に加えるのだ。

 そうすれば、彼の株が上がるから。

 チームメイト達も、優しく実力のあるドリッガーが言うなら、と従う。

 そして、リュウはいつも使えないレッテルを貼られているから荷物持ちとなるのだ。

 人気者の荷物持ち。

 今日は、少しだけつまづいただけだ。

 つまづいて、転んだだけだった。

 彼等の荷物を傷つけてはいない。

 だと言うのに、ドリッガーはそれが気にくわなかったようだ。

 実技演習からの帰り道の途中でいつものように、一方的な暴力が始まった。

 気にくわないのは、班員達も同じだったようで、一緒に暴力を奮ってくる。

 その暴力を彼は、受け入れる。

 ただ、殴られ、蹴られ続ける。

 それは、くだらないくらいいつもの事だった。

 彼らが通う学校にも序列がある。

 成績の良い者と貴族は優遇されるが、それだけプレッシャーも大きいらしく、溜まった鬱憤をリュウで解消しているのだ。

 やがて、気が済んだのか彼等はリュウをおいて先に学園へ帰ってしまう。

 ふと仰向けになって空を見たリュウは、その青さに目を細めた。


 「良い天気だなぁ」


 そんな事を呟く。

 すると、一番強い蹴りを入れられた脇腹が痛んだ。

 走った痛みに、思わず体を丸めた。

 そんな時だった。

 慌てたように彼に駆け寄る者がいた。


 「君、大丈夫かい?」


 覗きこんできたその人物は、リュウと同い年ーー十五歳くらいの少年だった。

 銀色の髪に、同色の瞳の少年だ。


 「んあ?

あぁ、平気平気寝てればそのうち良くなる」


 気だるげなリュウの言葉に、少年はしかし表情を険しくさせる。


 「立てる?」


 「いや、まだ無理。まだちょっと痛いから」


 あはは、と笑うリュウに少年はキョロキョロ周囲を見回す。


 「この辺は、魔物が少ないし。ルルガ皇国領内で治安も良いって聞いたんだけど、どんな奴だったか顔は覚えてる?

街に戻ったら、憲兵に言って捜査を」


 「あぁ、いや。違う違う。そう言うんじゃないから」


 リュウは今度は苦笑で答えた。

 どうやら彼は、リュウが盗賊にでも襲われたと思ったらしい。

 

 「違うって。でも」


 そこで少年はリュウが服に付けていた名札に気付く。

 そこには、総合学園の名前も書いてあり、大体の事を察してしまった。

 何処にでも、どうしようもない人間はいるらしい。


 「君、えっとリュウ・ソードウェル君は、学園の生徒なのか」


 「あ、えっと、まぁ」 


 歯切れの悪い返答に、少年は気にした風はなく続けた。

 

 「俺はアストラ。

アストラ・ローフィールド」


 「はぁ。えっと、ローフィールドさん。俺は大丈夫なんで、先を急いでるのなら、どうぞ行ってください」


 実際、痛みがひいてきた。

 なので、リュウの口調も丁寧なものに変わる。


 「そういうわけにはいかないよ」

 

 話をしつつもアストラはリュウの顔を観察する。

 嘘は言っていないか、本当に痛みは引きつつあるのか。

 見たところ、骨は折れていないようなので、きっとリュウの言葉は本当なのだろうとわかる。

 わかるが、傷ついた人間をこんな場所に放置して平然としてられるほど、まだ彼は腐ってはいなかった。

 もう少しだけ、リュウが回復するのを待って、アストラは彼に肩をかして立たせる。

 そして、彼を学園まで送り届けてくれた。

 その頃にはすっかり夕暮れとなっていた。

 街に入る頃には、リュウもすっかり回復していた。

 お礼に、となけなしの小遣いから謝礼金を出そうとするリュウの申し出をやんわりと断り、アストラは去ってしまった。


 

 リュウの前から去ったアストラは、ついでに、と受付へ向かう。

 リュウを見つけた時に、先にこの学園へ行けと命令した部下が先について話を通しているはずだ。


 「ついでに、彼を見つけてくれてれば良いんだけど」


 なんてアストラは呟いた。

 彼がこの国の、この総合学園にきた理由は、とある人物を捜して彼の所属する国に引き抜くためだ。

 目的の人物については簡単な情報しか手元にはない。

 インフェルノ帝国に飼われていた、この戦乱の大陸最凶の、忌まわしき穢れた殺戮者。

 古代魔法遺物(ロスト・テクノロジー)の適合者。性別は男。

 最前線で彼を見た生き残りの者の証言によると、黒い禍々しい剣を一振りしただけで、敵の大軍勢を消滅させたらしい。数年前に姿を消し、以来消息は不明だった。ちなみに、名前も不明である。

 そんな人物が、この学園に身元を偽って所属しているという情報が手に入ったのだ。

 定期的に行われる実技演習、その最中、不幸にも学園の生徒達が魔族達に襲われるというトラブルが起き、その魔族をほふった人物がいるらしい。

 詳しい状況説明によると、どこからともなく黒い稲妻のようなものが走り勢いよく魔族を切り裂いたと言うことだった。

 それが、殺戮者の攻撃と似ていたと言うことだった。

 その人物を見つけ出して口説き落として、国に連れ帰るのが彼の任務だった。

 アストラは、すぐに見つかるだろうと高をくくっていた。

 何故なら、帝国所属時の情報を信じるならば、なかなか優秀らしい。

 そんな人物が目立たないはずはないのだ。

 だから、すぐに見つかるとそう思っていた。






 

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