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同居人と私




 特急電車はすでに出発してしまった。ホームの時刻表を確認した私は、やはり普通電車で行こうと考える。


 そうと決めれば後は準備だ。

 一度、駅を出てからコンビニでパンとコーヒーを買う。まだ十一時前であったが、朝が早かったせいかお腹がすいていたのだ。

 駅構内のコンビニでも良かったのだが、時間は余っているし好きなコンビニで買いたかった。

 ついでに便箋も買った。夏らしく涼し気なデザインだ。もう少しシンプルなものがよかったのだが、置いていなかったので妥協して適当なものにしてしまった。


「残暑見舞いじゃないんだから」


 ぼやきながらコンビニを後にし、また駅に向かう。行き交う人々はどことなく急いでいて、時折ぶつかりそうになる。

 暑い夏の日差しが肌に痛い。少しの距離でも汗が流れて気持ち悪い。私は暑さから逃げるように、急いで切符を買って駅構内に戻った。


 ホームに立って電車が来るのを待っていると、柔らかい風が海の香りを運んでくる。一ヶ月ほど前は海水浴の客で賑わっていた駅も、今は閑散としていて静かだ。九月になったとはいえ、まだ暑さが残っている。

 それでも、どことなく秋の訪れも感じるような風だ。


 電車に乗って三時間もすれば海から遠く離れた山近くの田舎に着く。


 ぎゅっと胸が締め付けられ、時々やってくる頭痛に耐える。震えそうな足を隠すように、ホームを歩いて近くにあったイスに腰かけた。


 私はこれから、普通電車で田舎に帰ろうとしている。私が過ごした実家があるのだ。

 思い出すのは母と姉と、一人の同居人のことだ。



――――



 彼との出会いは覚えていない。


 私が物心ついた時にはすでにいて、家族の一員のように振る舞っていた。いや、私たちも彼を家族のように思っていたのだ。幼い私には、彼は遊んでくれる優しい人という認識だった。


 四角い大きな眼鏡をかけ、ぽっちゃりした体型の中年男性。

 平日は普通に働き、休みの日はテレビのスポーツ観戦をして過ごす。しっかりとお金を入れてくれるので、母は私たち姉妹を育てることに集中出来ていたようだ。


 彼が子育てに口出しすることはない。それは同居人だからだ。ただ、姉のことは大事にしていたように思う。

 姉は良くて、私は悪い。姉は出来るが、私は出来ない。そういう贔屓ひいきを毎日のようにされていた。

 だからこそ、当然のように私はどんどん同居人のことが嫌いになった。


 そんな現状で母が何もしなかったというわけではない。知らなかったのだ。彼は姑息だから、言うべきタイミングを知っている。

 そんなやり方も嫌いになる要因の一つだった。しかし、私は母に訴えることはしなかった。幼かったから、助けを求めるところまで頭が回らなかったように思う。




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