賭けをすることになりました
今日も今日とて朝から元気よく突撃してきたヒロイン様に連行されて食堂なうです。
何故か当然のように同じテーブルに座った従兄様御一行にヒロイン様は唇を尖らせています。
ああ、わんこ。わんこに癒されたい。
現実逃避するようにわんこを求める私に気付かず従兄様はヒロイン様と猫又をガン無視して甘ったるい笑みを浮かべてます。こわい。
それがここ数日続いている私としてはそろそろこの死んだ目に気付いてほしいのですが、どうにもそうはいかないらしいです。
視線を逸らした先でにっこりと微笑む妖狐。背後できゃあと悲鳴が上がっているのは気のせいじゃないですよね。お嬢さん方その元気を私にも分けてくれ。そして従兄様御一行を引き取ってくれ。
「姫君、オリエンテーションがあるのはご存知ですか?」
「……オリエンテーション、ですか?」
そう言えばそんなイベントあったな。
小首をかしげて記憶の糸を辿っている間に鴉天狗がついとこちらに視線を向けた。
「ああ、まだ知らされていないのか」
「ならこのまま知らない方向で」
お願いします。そう続くはずだった言葉は笑顔の従兄様に黙殺された。
「なぁ、璃桜。このオリエンテーションであるイベントをするんだが、賭けをしないか?」
嫌な予感がひしひしする。こういうのは迅速さが大切だ。
「結構です。遠慮させていただきます」
「っく、即答!ですか……くくく」
笑いをこらえきれていない妖狐を従兄様がギロリと睨む。
けれどそれも一瞬ですぐに麗しい笑みを浮かべて私を見つめた。
「面倒だから言うが、オリエンテーションでは生徒会と風紀相手に鬼ごっこをしてもらう。
といっても俺たちは逃げる側だがな」
「それなら、勝負になりませんよね?」
私、要兄様を追いかけようなんて絶対に思わないもの。言外にそう言えば従兄様は微苦笑混じりにだろうなと呟いた。
「当日、俺はお前を捕まえに動く。要はペアになりさえすればいいんだ」
「おい、要。それは賭けでもなんでもないだろう。
お前が勝てば必然的に月影の一日はお前のものになる」
冷静な鴉天狗のツッコミに私はイベントの全容を思い出した。
確か、従兄様が言ったように生徒会役員と風紀委員――――つまり攻略対象たち相手に鬼ごっこをするイベントだ。要は人気者の生徒の一日を餌にして彼らを追いかけまわすついでに校内のことも覚えてねってことらしい。流石乙女ゲーム。なんでもありだな。
……ゲームではあまり攻略対象たちのことを知らないヒロイン様がサボっていたところを攻略対象に見つかり興味を持たれるみたいな話だった気がする。
というかオリエンテーションのご褒美が攻略対象との一日デート権って。
……よし。休もう。
「ずる休みはなしだぞ。璃桜」
何故バレた。
「お前が勝ったらなんでも一つ願いをきいてやる」
「私が負けた場合は、私の一日を要兄様に差し上げる、でよろしいのですか?」
「ああ」
「分かりました」
負けても従兄様と一日過ごすだけだしまぁいいか。そんな気持ちで引き受けた。
従兄様からの告白が一瞬頭をよぎったけれど、恋なんてわからない。
やろうとおもってするものじゃなくて落ちるものだって先輩も言ってたし、私は知りません。
でも、当日は従兄様から全力で逃げようと思います。