欲しいものー要視点ー
要兄様視点です。
楽しんでいただけると嬉しいです。
不思議そうな顔をした璃桜が俺だけを見つめる。
それだけで幸せを感じるのだからもう末期だ。
ニヤニヤとこの状況を楽しんでいる友人(下僕)たちを視界から締め出し、はしたなく牙をむいている璃桜の友人らしい人間の女と緊張した面持ちで成り行きを見守っている猫又の視線を無視する。
もっと眺めていたい。
俺だけに注がれるその視線をもっと感じていたい。
だが、せっかく璃桜が疑問をもったんだ。この機を逃すわけにはいかない。
「あぁ、知ってる」
「ではどうして……?」
そんなの、決まっているだろう?
意地悪く唇が歪むのを感じながらまっすぐに璃桜を見つめる。
「否定する必要がないからだ」
「それは一体、どういう……」
意味が分からないと眉を寄せる璃桜。そんな表情も美しい。
「わからないか?」
困惑する璃桜の頬に手を滑らせる。
ビクリと跳ねる肩が愛おしい。
俺にこんな感情を抱かせるのはお前だけなのだと、まだ気づかないのか?
そう囁いてやりたいのをぐっと抑えて叔父様と叔母様に取り付けた約束を思い出す。
璃桜が自らの意思で俺を選んだその時、またはこの学園にいる間に璃桜が運命を見つけられなかった時、璃桜は我々鬼の一族の次期当主夫人(俺の妻)となる。
それを両親と叔父様と叔母様に了承させた。
どうしても欲しかった。
だから使えるものをすべて使って璃桜を手に入れようとした。
この学園に璃桜を放り込んだのは叔父様と叔母様なりの心遣いだ。
せめて将来の伴侶くらいは自分で選べるようにと。
けれど、逃がす気はない。
最初は妹として見ていた璃桜を手放したくないと思うようになったのはいつだったか。
俺のフルネームを聞いて璃桜が倒れたときか、ぎこちなく俺を避け始めたときか、作り笑顔で俺に対応し始めたときか、それとも、璃桜が家出を決行した日か。
きっかけなど覚えていない。だが逃げられると追いかけたくなるのが性だろう?
あれだけ俺に懐いていた璃桜が、俺のお嫁さんになると笑っていた璃桜が、俺から距離をとり始めたのはこの苗字と次期当主という役職のせいだというのは分かっている。
だが、たったそれだけの理由で俺がお前を逃がしてやると思うのか?
自然とこぼれ落ちた笑みに璃桜の顔がこわばる。
「要兄様……?」
「叔父様と叔母様が璃桜の自由恋愛を推奨しているのは本当だ。
だが、その対象に俺が含まれていないのは可笑しいだろう?」
そう言って凄絶な笑みを浮かべてやると璃桜は小さくひぃっと悲鳴を上げて隣で俺を威嚇し続けていた女に抱き着いた。
気に入らない。
「俺が欲しいのは璃桜、お前だけだ。
だから噂の否定はしないし、お前に手を出す害虫は全力で叩き潰す。
お前が運命を見つけられなかったときも、俺がお前を奪う」
「にいさま……」
「生憎、手加減してやれるだけの余裕はないんだ。覚悟しろ」
信じられないという表情で俺を見つめる璃桜を女から引きはがし白魚のような手を掬い上げる。
請うように、見せつけるように唇を落とすと、璃桜の白い肌に朱か差す。
羞恥と動揺から瞳を潤ませる姿は食べごろだ。
ここで手を出せないのがただひたすらに悔しい。
「璃桜、好きだ。愛している」
「に、さま。わたし、私は……!」
璃桜の答えを遮るように唇に人差し指を押し当てる。
柔らかな感触にくらくらしながらなんとか理性を保ち、言葉を紡ぐ。
「答えはまだいい。だが、必ず手に入れてみせる」
どんな手を使っても、な
小さくこぼれ落ちた言葉は呆然と立ち尽くす璃桜の耳に届くことなく溶けて消えた。