食堂に連行されました
すがすがしい朝。鳴り響くインターフォン。
のぞき穴の先にはミルクティー色の美しい髪をふんわりと巻いている可愛らしい少女。
なぜヒロインがいる!?
あぁ、今日は厄日だ。学校休もう。
見なかったことにしようと思った瞬間、元気な声と共に大きなノックの音が響きました。
泣きたい気持ちをぐっと堪えてドアを開ける。
「璃桜ちゃん、おはよう!!」
「……おはようございます」
「朝ごはん、一緒に食べようと思って」
「……ごめんなさい。もう済ませてしまいました」
「え!?璃桜ちゃん自炊してるの!?すごーい!!」
いや、そうじゃなくて。私はもうご飯食べちゃったから一緒に食堂にはいきませんって。
「あ、じゃあデザート!デザート食べにおいでよ。
私、昨日はじめて食べたんだけどすごく美味しいんだー」
「……えっと、」
「ね?行こ!」
そう可愛らしく笑うとヒロイン様は強引に私の手を引っ張って食堂へと向かっていきました。
せっかく昨日の夜わんこで癒されたライフゲージがどんどん削られていきます。
連行された食堂でやっぱりというか登場される従兄様。
「璃桜、今日は食堂か?なら一緒に食べよう」
「ちょっと待ってください!璃桜ちゃんは私と一緒に食べるんです!」
そしていきなり従兄様とバチバチ言わせるヒロイン様。
うわー。なにこれ。どんなフラグですか。
というか出会いイベントってこんなだっけ??なんかもっとこう凝った演出されていた気がするんですが。ヒロイン様本気で従兄様にくってかかってるし……。
いやでもこれはこれでありなのか……??
「姫君、こちらにどうぞ」
「月影がドン引いてるぞ」
当たり前のように従兄様の隣の席を進めてくる妖狐に私の心情を代弁してくれる鴉天狗。
朝から濃すぎる。思わず遠い目をしてしまいそうになったとき、鮮やかな銀が視界を遮った。
「邪魔なんスけど」
ふわりと薫るなんだかとっても癒される香り。鋭い金の瞳。流れる銀糸。あぁ、わんこ!!
いやいや!違う!彼は人間だ。しかも真っ向から従兄様に喧嘩を売れるくらいの。
タイの色は青。ということは私の1つ上で従兄様の1つ下。2年の先輩だ。
「先輩、ごはん、ご一緒してもいいですか?」
気が付いた時にはそう話しかけていた。
「は?」
「へ?」
「璃桜……?」
「私、今朝は先輩とご一緒したいです」
笑顔でそうゴリ押して戸惑う先輩を引っ張り、呆然と立ち尽くす従兄様とヒロインを置いて席に着いた。
「よかったのか?月宮の姫君」
「構いません。
それより私は月影璃桜です。月宮の姫君なんて大層な名前ではありません」
むっとした顔で言い返した私に先輩は目を瞬いたあと、可笑しそうにくつくつと笑い出した。
「それは悪かったな。月影。
俺は風音拓真だ」
「風音先輩ですね。覚えました」
はじめてまともな知り合いができた!
嬉しくて自然と顔がにやける。
「っ、」
「先輩?」
「いや、噂と随分違うと思ってな」
「私だって嬉しかったら笑うし、悲しかったら泣きますよ」
「そりゃそうだ。でもそっちのほうがずっといいぞ。
せっかく可愛い顔してんだから笑ってろ」
「っ、先輩、それ、口説き文句です」
「は!?わ、わ悪い!そんなつもりは」
「わかってます」
「そ、そうか」
怖そうな外見とは裏腹に純情さんだ。
というのが少し話してみた私の感想です。
思いっきり目を泳がせている先輩が可愛くてくすくす笑う。
むっとした釣り目が私を睨んだ。
「ごめんなさい。
そういえば風音先輩ってわんこ飼っていたりしますか?」
「っ!?か、飼ってるわけないだろ!俺だって寮生だ!」
「ですよねぇ。
わたしのお友達に先輩みたいなわんこがいるんですよ!
とっても可愛い、いい子ちゃんなんです」
「……そうか。よかったな」
何故かぐったりとした先輩は遠い目をしながらそう答えてくれた。
その様子に首をかしげる暇もなく、姦しい声が割り込んできた。
「璃桜ちゃんと朝ご飯食べるのは私だったのにーーー!!」
「璃桜、俺よりそいつのほうがいいというのか!」
顔をひきつらせたのは私だけではなかった。
ヒロイン様と従兄様に殺気の籠った目で睨まれている風音先輩の顔はこれでもかというくらいにひきつっている。
ここは巻き込んでしまった手前、私がなんとかしなくてはならないんだろうなと思いながら声のほうへと向き直りました。
「要兄様、ヒロ……小鳥遊さん。
落ち着いてくださいな」
危なー!!危うくヒロイン様って呼ぶところだった。とっさに苗字を思い出せてよかった。
よくやった私。そしてこれからどうしよう!?
「はぁ……。月影が困ってんのわかんないんスか?」
「なんだと?」
ぎゃぁああああ!!悩んでる間になんか険悪な雰囲気になってる!!
睨み合う従兄様と風音先輩。ヒロイン様はもう空気。
……間違えました。いつの間にか私の隣を陣取ってぷんぷん怒っていらっしゃいます。
でも、ごめんなさい。私、ヒロイン様にかまってる余裕ないです。
「小鳥遊さん、ごめんなさい。
要兄様、夕飯をご一緒させていただきたいです。
それでここは収めてくださいませんか?」
「……璃桜がそう言うのならしかたない。
だが、あまり俺を試すような真似をするなよ?」
「えっと……」
どういう意味ですか?別に従兄様を試したつもりなんてかけらもないのですが。
というか毎度のことながらほっぺたを撫でるのやめてください。
周りの視線が痛いです。
「姫君は随分と罪深くていらっしゃる」
「無自覚か。はたまた要の独りよがりか」
「外野は黙れ」
今まで傍観に徹していた癖に苦笑いで何かを呟いた妖狐と鴉天狗を黙らせる従弟様。
「風音先輩も巻き込んでしまってごめんなさい。
ご飯、ご一緒できて楽しかったです」
「いや、俺も悪かったな。」
いろいろと頑張れよ。そう言って去っていく先輩はすごく素敵に見えました。
頭ぽんぽんされたのもツボでした。
その時の従兄様の形相は見なかったことにします。
2016.05.26 誤字修正しました。