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気づけば大事なお友達でした

 灰になった私とヒロイン様を回収してくれたのは、やっぱりというか猫又でした。

 ヒロイン様と共に猫又に慰められながら教室に戻った私です。

 いつも遠巻きにしているクラスメイトたちまで慰めてくるのが余計につらいです。

 お菓子はいただきますが。あ!ヒロイン様、それ、私が頂いたやつですよ。

 気持ちは分かりますが、そんなにガツガツ食べたら。


「むぐっ」

「ああ、結花さん、お茶。お茶を飲んでください」

「結花、大丈夫?」


 案の定、喉を詰まらせたヒロイン様にお茶を差し出して背中をさすっていると、不意に清涼感溢れる声が響いた。


「失礼するよ」


 がらりと開いたドアから現れたその人に、生温かい目で私たちを見守っていたクラスメイトたちがざわめく。

 ぐるりと周囲を見渡した東雲しののめ先輩は私と目が合うと口の端を釣り上げた。

 口 の 端 を 釣 り 上 げ た ?

 いやいや、自意識過剰はよくないです。

 あの東雲先輩が私ごときに用事があるだなんてそんな訳ないでしょう。

 だから猫又、今度は何やらかしたんだって目で私を見ないで!

 本当に!なにも!してません!!

 はっ!まさか、鬼ごっこの途中でお昼寝の邪魔をしてしまったのが原因!?

 どどどどうしましょう!?

 縋るように猫又とまだ咽てごほごほ言っているヒロイン様を見た。

 ……色んな意味でいっぱいいっぱいなヒロイン様はしょうがないけど、猫又はどうして目を逸らすのかな?


「取り込み中にすまないな。

 月影、君に用があるのだが少しいいだろうか?」


 ひぇ、美しい。


「ひゃい」

「流石の私も、そんなに怯えられると傷つくんだが」

「す、すみません。東雲先輩が美しすぎて無理です」

「は?」

「あばばばば!ナンデモナイデス!」

「月影、大丈夫?キャラ崩壊どころじゃないけど」

「璃桜ちゃん、鬼ごっこがそんなにショックだったんだね」


 分かる!じゃないんだよ。ヒロイン様!

 私は何を口走っているんだ!ああ、死んだ。助けてわんこ。私のライフはもうゼロよ。

 おそるおそる東雲先輩に視線を戻すと必死に笑いをかみ殺していらっしゃる。

 ですよねー!すみません。


「ふふ、噂など当てにならないな。

 月影璃桜、君なら歓迎しよう」

「あの、東雲先輩、お話が全く見えないのですが……」


 にっこりと麗しい笑顔を振りまく東雲先輩にありがとうございますと呟きそうになるのを堪えて、質問する。


しずかでかまわない。

 茜から話は通してあるからサインを貰って来いと言われたのだが……。

 君は風紀に入るのだろう?」


 不思議そうに首を傾げて東雲先輩に反射的に声が出た。


「ハイ!喜んで……辞退させていただきます」


 あ、危ない。東雲先輩の麗しさに思わず頷くところだった。

 ……完全に頷いたけど、軌道修正できたから良しとしよう。

 ぱちりと目を瞬いた東雲先輩には申し訳ないけれど、私は平穏に学校生活を過ごしたい。


「却下だ。静も気に入ったならうちが手放す理由はねぇ。

 理解したならさっさとサインしろ」


 モーゼのように割れたクラスメイトたちの間を悠然と歩いてきた風紀委員長が圧をかけてくる。その背を追いかけて来たらしい風音先輩が頭を抱えている。

 先輩!気持ちはすごく分かりますが、頭を抱えている暇があったら助けてください。

 祈りが通じたのかゆるゆると顔をあげた風音先輩は私を見てただ一言だけ呟いた。


「諦めろ」

「風音先輩!?」

「そんな裏切られたみたいな顔しても無理なもんは無理だ!」


 絶望に崩れ落ちそうな私に風紀委員長はさぁ書け。すぐに書けと風紀委員会の入会届をぐいぐい押し付けてくる。


「そこまでにしてもらおうか。生憎うちの璃桜は生徒会に入ることが決まっている」


 うちのを強調した従兄様に抱き込まれる。


「……要兄様、初耳です。」


 そして離せ。とぐいぐい胸板を押し、ぺちぺちと腕を叩くと渋々解放された。


「姫君、そうおっしゃらずに」

「月影が入るなら風紀よりも生徒会うちだろう」


 頭痛が痛いとはこのことか。

 これ以上ややこしくしてどうするんだ。

 というかクラスメイトたちがどんどん距離を取っていくんですが。

 ただでさえ遠巻きにされているのにどうしてくれる!

 恨みつらみを込めて従兄様を睨んだら甘ったるい笑みが返ってきてライフをゴリゴリ削られた。


「残念でしたね。生徒会の皆様。彼女は我々を選んだようですよ」


 うわっ、さっきまでオラオラ系だった風紀委員長が急に敬語。

 こわ。近くにいた風音先輩の背中にさっと避難する。

 お前なぁという視線を向けられたけれど知らない。

 困ったときの先輩で私の中にはもうインプットされてるので諦めてください。

 というか従兄様御一行と風紀委員長と東雲先輩のバチバチが怖いんですが。

 猫又とヒロイン様もうわぁってお顔で見てますよ。

 先輩方大人げない。


「月影の風紀委員会への入会届はこの通り受理しましたのでご心配なく」


 にっこり笑顔で従兄様を煽るだけ煽って風紀委員長はご機嫌で去っていった。

 その後に東雲先輩が優雅に続く。疲れ切った顔の風音先輩もその後に続いた。

 え!ちょっと待って、先輩!私も連れてってください。今日から風紀委員なんでしょ。私。

ここにいたくないです。え、お前の最初の仕事は月宮要を何とかすることだ?知らないです。私、ちょっと分からないです。


「璃桜、」


 苦々しく名前を呼ばれておずおずと従兄様を見上げる。


「可哀想に。怖かっただろう?

 すぐに退会届を用意するからな」


 あれ?思ってた反応と違う。

 ひしっと抱き込まれてよしよしと頭を撫でる従兄様に疑問符を飛ばしていると妖狐と鴉天狗にまで頭を撫でられた。


「会長!璃桜ちゃんを離してください!!」


 ヒロイン様にひったくられるように奪還されました。


「先輩方もセクハラです!」

「なんだ。肝心な時に動かなかった璃桜のオトモダチ」


 側にいるなら役に立てと従兄様が凄む。


「要、無茶を言ってはいけませんよ。

 彼女たちにはあまりに荷が重い」

「相手が悪い。役に立たなくともしかたあるまい」


 役立たずの烙印を押されたヒロイン様がシャーーーと毛を逆立て臨戦態勢を取り、猫又も表情が引きつっている。

 というか妖狐も鴉天狗もそれはフォローじゃない。トドメだ。


「……要兄様、先輩方。私は私のお友達を貶める人と親しくするつもりはありません」


 思っていたよりもずっと冷たい声が出た。

 どうやら私は怒っているらしい。

 ヒロイン様と猫又――――結花さんと良太君はもう私にとって大切なお友だちなんだ。


「璃桜…?」

「先輩方。HRが始まります。お戻りを」

「りお」

「お戻りを!」


 にっこり笑顔で扉を指してやった。

 絶望顔の従兄様と愉し気な妖狐と鴉天狗の背中を見送って、ふぅと息を吐くとむぎゅうと結花さんに抱きしめられた。


「璃桜ちゃん好き!カッコイイ!女神!」

「女神はやめましょか。女神は」

「ありがとう月影」

「……なんのことですか」


 ふいっとそっぽを向く。

 顔を見合わせた結花さんと良太君に抱きしめられた。



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