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憧れのファンサに油断しました

 そんなわけでやってきましたオリエンテーション。

 永遠に来なければいいと思う時間ほどあっという間にやってくるものです。ええ。本当に。

 仮病がダメなら本当に風邪をひけばいいんじゃないか!とも思ったのですが、上手くいかないものですね。夜にベンチでわんこを待ちながら、あわよくばと粘っていたのですが風音先輩に回収される毎日でした。

 そんなこんなで、参加することになったオリエンテーションですが、思わず遠い目をしてしまう私の周りでは女子生徒たちの黄色い声が飛び交っています。控えめに言って目が潰れそうです。壇上だけ顔面偏差値高すぎません?というか、しれっと風音先輩が風紀委員会の列にいるんですが!しかも東雲先輩の隣!え、副委員長の隣ってことは結構偉い人です?まじか。

 というか風紀委員会から参加するのは代表の三名だけなんですね。その代表に選ばれているらしい風音先輩は私が全くやる気のなさそう。きっとどこかでサボるんだろうな、私も先輩のサボリ場に匿ってくれないかななんて思っている間に説明が終わりました。

 途中、要兄様と風紀委員長が煽り合ったり、妖狐が無駄なリップサービスして女子生徒を煽ったり色々ありましたが、生徒会役員と風紀委員代表の皆様が校内に逃げてスタートです。


「璃桜ちゃん、絶対逃げ切ろうね!」

「月影、頑張ろうね!」


 やる気満々なヒロイン様と猫又にこくりと頷いて、キャーキャー楽しそうな女の子たちの後を追いかける。制限時間は一時間。なんとしても逃げ切ってやる。

 そう思っていたんですが、これは一体どういうことでしょう?


「姫君、そんなに怯えないでください」


 柔和な笑みを浮かべながらじりじりと距離を詰めてくる妖狐。

 可笑しい。可笑しいぞ。選り取り見取りの妖狐が何故私なんかを追いかけてくるの?

 あと三歩下がれば階段。もちろんこちらの目論見はバレてる。走り出した瞬間距離を詰められる。どうする。私の平和な休日のためにもこんなところで、捕まるなんて絶対無理だ。


「この手をとっていただけたのなら忘れられない一日にするとお約束しますよ?」

「結構です」


 無駄に色気を垂れ流す妖狐の言葉をバッサリと切って捨てる。

 あと一歩でもこちらに近づかれると逃げ切れる確率がぐっと下がる。どうする。じわりと背中に嫌な汗が伝った瞬間、妖狐の背後からにんまりと悪い笑みを浮かべたヒロイン様がすぅっと息を吸うのが見えた。


「きゃああああ!雪村先輩よーー!!」


 響き渡る声と一瞬の静寂。その後に聞こえてきた地鳴りのような響きに妖狐が振り返り、ヒロイン様を睨みつけたときにはもう遅かった。すごい勢いで押し寄せてくる女子生徒たちを壁と同化しながら避け、とっさに教室に逃げ込んだ妖狐に両手を合わせる。いくら女好きの妖狐でもこの光景はトラウマになるんじゃないだろうか。血眼になって妖狐を追いかけるお嬢さんたちの間を縫って私はこの窮地を脱したのだった。

 ありがとう、ヒロイン様。本当にありがとう。

 ヒロイン様にむぎゅむぎゅ抱きしめられながら、ほっと息を吐く。

 妖狐とお嬢様方が消えていった教室を引きつった顔で眺めていた猫又からは急にいなくなるな!とお説教されました。ごめんよ。でもいなくなったのはヒロイン様と猫又だよねと思ったのは内緒です。

 ヒロイン様と猫又にがっちり挟まれて移動すること十分。またしてもはぐれました。あれ?可笑しいな。まだ十分しかたってないよ。残り時間三十分はあるよ?ヒロイン様も猫又もどこ行ったの?なんて思っていたら女神を見つけました。

 東雲静先輩。

 人気のない中庭のベンチで無防備に横になっておられる。

 控えめに言って美しい。思わずガン見してしまった。

 熱すぎる私の視線に気づいたのか、東雲先輩は長いまつ毛を震わせて瞼を押し上げるとチラリとこちらを見た。

 はわわ!視線が合ってしまった。あわあわする私に先輩はパチリと目を瞬くと人差し指を唇に当てて悪戯っぽく笑った。

 ありがとうございます!ごちそうさまです!

 両手で口を押えてブンブンと頷く私に先輩は小さく笑うとまた美しい黒真珠を隠してしまわれた。

 立ち去らねば。物音一つ立てず、気配を殺して、ここを立ち去らねば!!東雲先輩のお邪魔は出来ぬ!!妙な使命感の元、私はそっとその場を後にした。


 憧れの先輩からの予想外のサービスにホクホクの私は完全に油断していた。

 なんならオリエンテーションのことなどスコンと頭から抜け落ちていた。

 だからって、この状況はあんまりじゃないですか!?

 前に鴉天狗、後ろには従兄様。どっちに逃げても私終了のお知らせ。


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