わんこに会えませんでした
食堂でのやりとりはあっという間に噂になったらしく、登校して早々に猫又がクラスメイトに囲まれています。ヒロイン様もいつの間にか女の子たちの波にのまれてます。
私はボッチなので誰も何も聞きに来ません。か、悲しくなんてないんですからね!本当ですよ!
そうこうしている間に担任が現れ、心なしかげっそりした表情でHRをはじめました。
連絡事項の中にはオリエンテーションのこともあって、従兄様の賭けがメインな説明ではなくキチンと詳細を教えて頂けました。ありがたや。
オリエンテーションのイベントが今年からポイントラリーから鬼ごっこに変わっただなんて余計な情報も聞きましたけどね!
乙女ゲームですから。ヒロイン様が入学してきたらそりゃ、イベントもそれっぽくなりますよね!生徒会の皆様は従兄様を筆頭に華やかですし、風紀委員も攻略対象は風紀委員長だけですが美形揃いだった気がします。ちなみに私は風紀副委員長であらせられる東雲静先輩が素敵だと思います。お姉様とお呼びしたい。憧れの女性です。……お気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、風紀委員長ルートのライバルキャラです。
ヒロイン様、お願いだから風紀委員長は攻略しないでください。色々とアレなので。何がアレなのかはご想像にお任せします。
話がそれましたがとりあえず、このイベントでは全力で従兄様から逃げると言うことで。
そんなことをつらつらと考えていたらいつの間にか午前の授業が終わっていました。
いつの間にか両手いっぱいに総菜パンを抱えた猫又が目の前でプンスカ怒ってます。
怒っても可愛らしいだけなんですが。
「二人とも見てないで助けてよ!」
「私のところにも何人か来たけど、良太君のとこは一段とすごかったよね」
「そうですね」
「月影も結花も他人事なんだから!本当にひどい目にあった……」
プリプリ怒ってる猫又の口におやつに持ってきたクッキーを突っ込む。
要兄様はたいていこれで機嫌が直る。猫又に通用するかは分からないけど、他にいい方法を思いつかないから仕方ない。
もぐもぐと口を動かした猫又は目に見えて機嫌が直った。
「月影、ずるい」
「ずるいのは良太君だよ!璃桜ちゃん私も!私もあーん」
その開いたお口はなんですか。ヒロイン様の口にもクッキーを突っ込めって?
「お口に合わなくても文句なしですよ?」
そう言ってあざと可愛いヒロイン様の口にそっとクッキーを差し出した。
ふにゃりと幸せそうにゆるんだヒロイン様の顔に絵になるなーと思いつつ自分の口にクッキーを放り込む。
「もしかしてコレも月影の手作り?」
「ええ、気分転換に」
「璃桜ちゃんは良いお嫁さんになるよ!」
そう言いながらおかわりを要求するヒロイン様に微苦笑を零す。
「ダメですよ。お昼ご飯のあとならあげますから、まずごはんをいただきましょう?」
「はーい」
いい子の返事をしたヒロイン様に猫又と顔を見合わせて笑う。
一瞬教室がざわめいた気がしたけれどヒロイン様も猫又も気にした素ぶりがないので三人連れたっていそいそと中庭に向かい、お昼を頂きました。
――――夜、いつものようにベンチでワンコを待ってます。
いつもならもうとっくに来てもふもふさせてくれている時間なのに。
もうちょっともうちょっとと粘っている間に寝てしまったらしく、気づけば談話室。
あれ?前にも似たことがあったような。
「お前は外で寝る癖でもあるのか?」
呆れたような風音先輩にココアを差し出されてお礼をいいつつも唇を尖らせる。
「だってワンコが……」
「何でもいいがもう外で寝るなよ。いつも俺が見つけてやれるとは限らねぇんだからな。
……悪かったな」
「風音先輩?」
呆れた声のあとにぽつりと呟かれた言葉が聞き取れずに聞き返すとなんでもないと首を振られさっさと部屋に戻るように促された。
わんこには会えなかったけどなんとなくほくほくした気持ちで部屋に戻った。
……ココア奢ってもらったからかな?




