第8話 side奏多
それから、俺と美羽のオツキアイは何事もなく続いた。
うん、そうなのだ、ナニゴトもないのだ!
いや、さすがにずっと一緒にいるのだから、多少なりとも俺に好意を持ち始めているのは感じている。
えっ、気のせいなんかじゃないぞ。
目が合えば恥ずかしそうに笑うし(それが、メチャメチャ可愛い!!)
手を繋ぐと嬉しそうに握り返してくれるんだ。
だけど、なんかこう良い雰囲気になって、キスをしても大丈夫そうかな〜と思うとかわされるのだ。
どうでもいい話をしたり、突然走り出したり…。
き、嫌われてはイナイはずだ。
けど、度々それが続くとさすがに凹む。
何回かそんなことが続いた後、勇気を出して新庄に相談してみた。
こんなこと相談するなんて、と思ったが手段を選んでる場合ではない。
すると新庄は呆れた顔で言った。
「奏多さま、あなたは美羽さまに何と言ってお付き合いして頂いたのか忘れてしまったのですか?」
この頃には、親も新庄も俺がどうやって美羽と付き合ってもらったかばれていた。
親からは犯罪行為はやめてくれと言われていた。
何度も言うが、ホントに俺をどういう目でみてるんだ!?
「美羽さまは、きっと付き合っているフリをしているのにそういう行為をするのが悪いと感じているのでしょう。美羽さまはお優しいですからね。」
!!
そ、そうだった。美羽と付き合っているという事にうかれてその事実を忘れかけていた。
そうなんだよな、美羽にしてみれば付き合っているフリなんだもんな。
あー、美羽と一緒にいられることに満足してしまいその事を訂正するタイミングが…。
結局美羽に俺の本当の気持ちを伝えられないまま高校を卒業した。
本当は同じ大学に行きたかったが、さすがに将来的に親の跡を継ぐために大学は諦めた。
今まで好きな事をさせてくれた親に安心してもらいたかったしな。
ただ、卒業間際に美羽からお付き合いのことを言われたときは、美羽には気付かれなかったが必死で付き合いの延長をお願いした。
今から思えばこの時に俺の本当の気持ちを伝えれば良かったんだ。
でも美羽に対してだけはヘタレな俺は、それが出来なかった。
この頃から親の会社の関係のパーティーに参加する機会が増えてきた。
今まで美羽に構うので忙しかったが、そろそろ将来を考え人脈も広げなければと考えたからだ。
それに、将来美羽に苦労はかけたくないからな!
俺は美羽の為に稼げる男になる!
ただ、俺の高校での姿を知らない奴らばかりな為、やたらと派手な女やその親が俺に近づいてきた。
うおー、そんなクサイ香水付けて俺に近づくな!
やたらと触り過ぎだぞ!
あーーーん、具合が悪いから付き添ってだと〜?
早く帰れ!!そんな顔色のいい病人がいてたまるか!
なんなんだ、このカオスは!
俺には美羽がいるんだぞ!
お前らなんてお呼びじゃないんだ。
いちお、マトモな人もいるがそれ以上にハンターが多い。
俺は獲物か?
俺のその状態を見て親は苦笑いしていた。
おい、見てないで助けろ。
アイコンタクトで助けを求めたら、そのくらいなんとかしろと返された。
うーん、何とかしてもいいが、本当にいいんだな?
というのを、全てアイコンタクトでしていたら、俺が何かやらかすと思った親が駆け寄ってきた。
解せぬ。
「みなさん、奏多は二十歳の誕生日に婚約者を発表するつもりです。それまでは余り騒ぎ立てないでやって下さい。」
親には二十歳になったら美羽と婚約したいと話していた。
まあ、その前に美羽に話をつけなければならないがな。
ただ、この話を聞いて真っ当な人間はもう俺には決まった人がいると考えたんだが、中には本当に話が通じない奴らがいる。
その代表格が西尾っていう家だ。
そこはなんか、うちの会社とそれなりに付き合いがあるらしいんだが、昔からうちの娘をお宅の坊ちゃんに、みたいなことを言ってきているらしい。
俺は覚えていないが、昔親に連れて行かれたパーティーで会っているとか。
なんか、その時に俺に一目惚れをしたらしく、周りには自分以上に奏多さまに合う人はいないと豪語しているらしい。
あくまで、俺が聞いた噂によればだが。
なんなんだよ、それ。
一回しか会ってない上に、俺の気持ちも無視して周りにアピールって。
…あ、あれ。気持ちを無視して周りにアピールって…
もしかして、お、俺もなのかーーーー!
い、いや待て。
お、俺はきっちり美羽にもアピールしてたぞ。
…あまり気づかれてはいなかったが。ヤバい、泣ける。
まあ、そんな感じでこのパーティーは済んだんだが、その後が問題だった。
何かにつけてこの西尾っていう女が現れる。
いちお、会社の付き合いもあるから邪険にも出来ず、お得意の笑顔でやんわりとお断りした
しかし、あの西尾親子にはまったく通じない。
俺が出ていないパーティーでは自分が俺の婚約者が確定してるとまで言いやがったらしい。
本当に話が通じない奴って厄介だな。
日本語喋ってるのに、聞いた事のない言語を聞いているようだ。
そんな、どうでもいいことに気を取られていたから、あんなことになったんだ。
なんで、もっと美羽のことを気遣ってやれなかったんだろう。
学校が違うからなんて言い訳にしかならない。
俺はきっと美羽に甘えていたんだ。
優しい美羽だったら俺から離れるわけないって。




