第4話 side奏多
美羽と出会ってから俺の生活は変わった。
まず、1日1回美羽に会わないと調子が出ない。
そんな、俺に家族は直ぐに気がついた。
俺の両親は家柄がどうのこうの言う人ではないが、小学校時代は気恥ずかしくて言えなかった。
ただ、珍しく俺が楽しそうだと嬉しそうにしていた。
小学校では同じクラスには結局なれず、毎日図書室に通った。
美羽には本好きなんだねー、と誤解された。
フツー少しは意識してくれると思うのだが。
そこが美羽の魅力でもあるのだが、いくら俺が毎日会いに行っても全く態度が変わらなかった。
うん、ちょっと。いや、かなり凹んでいた。
俺、結構アピールしてたよ。
ほんとに。
他の女子の前では笑ったりしなかったが、美羽の前では自然と笑顔になった。
それに、美羽の誕生日には美羽にぴったりの髪留めをプレゼントした。
しかし美羽は、こんな高そうな物貰えないと受け取ってくれない。
(美羽の為に選んだから、貰ってくれないと捨てるしかないと言うと、渋々受け取ってくれた。)
他にも美羽と二人の時は、それはそれは小学生なりに頑張った。
でも、やっぱり美羽は俺のことを友達としか感じていないようだった。
他のどうでもいい奴らは、嫌ってほど寄って来るのに美羽は自分からは近寄って来ない。
中学は本当は、私立のいわゆるお坊ちゃん方が通う所に行く予定だったが、親に頼み込んで美羽が行く公立に行くことにした。
滅多にというか、ほぼ初めての俺のワガママに親は文句も言わず許可してくれた。
後で聞いた所、あそこで許可しなかったら何をするか分からなかったから、と言われ親が俺をどう思っているのか問いただしたくなった。
新庄には何か生温かい目で見られた。
なんか腹が立つ。
中学に入ってからは、ますます女子の勢いが増してきた。
バレンタインなんて恐怖でしかなかった。何が悲しくて下駄箱の中にぎゅうぎゅう詰めにされた、何が入っているかわからん物を食わんといかんのだ。
それに、貰うなら美羽からがいい。
というか、美羽のしかいらん。
なのに当の美羽はこれっぽちもバレンタインのことが頭にないようで、チロルの一個もなかった。
無駄にその日は美羽の前を行ったり来たりしてたら、邪魔者扱いされた。泣ける。
中学に入って美羽とも同じクラスにようやくなれた。
だが、美羽と接する時間が取れない。
俺が美羽の所に行こうとすると必ずクラスの女子が割り込んでくる。
そんな様子を見て美羽は、相変わらず大変だねと小学生のときと態度が変わらない。
折角同じクラスなのに美羽パワーが足りない、まったく足りないぞ。
なんの為に美羽と同じ学校に来たんだ。
こうなったら、正攻法では美羽は攻略できない。
美羽の優しさを利用するようで悪いが、あれしかない。
始まりも美羽の優しさからなんだし、それに賭けるしかない。
勝負は高校だ。
それまでに、準備をしなければ。
まず、美羽に俺が女子に追いかけられ過ぎて、女子が苦手だと思ってもらおう。
実際はただ美羽以外の女子が面倒なだけだが。
中学時代は無理に美羽に好意を押し付け過ぎないように細心の注意を払った。
もちろん、美羽に近づく野郎共の駆逐にも手は抜かない。
中学が終わる頃には、男子には俺が美羽をどれだけ大切にしているか分かってもらえたようで、美羽に不必要に近づく馬鹿はいなくなった。
美羽には俺が女子を苦手にしていることをアピールした。
そして、女子は苦手だが美羽とは普通に話せることもさりげなく伝えた。
美羽は変わらず俺と普通に接してくれた。
嬉しいことは、嬉しいんだがホントはもうそれだけじゃあ足りなかった。
でも、高校まで待ってからの方が美羽も俺の作戦にはまり易くなると思った俺はとにかく我慢した。
遂に高校に入学した。
もちろん美羽と同じ学校だ。親は何か新庄と同じ目をしていた。
いや、好きにさせてくれるのは嬉しいのだが、そんな目で見るのはやめてくれないか。
俺だってここまでするとは思ってもみなかったんだから。
でも、やっぱり美羽のことは諦められない!
そして俺は作戦を決行することにした。
美羽と二人になれる場所、高校でもそれは図書室だった。
美羽は高校でも図書委員になっていた。同じクラスになれた俺はクラスの奴らに嫌と言うほど美羽と同じ図書委員になりたいと訴えた。(もちろん美羽がいない時だ。)
高校では周りの奴らに美羽にベタ惚れなことを隠さない事にした。
その結果クラスメイトは俺と美羽のことを見守ってくれることにしたらしい。
(男子は引き気味で、女子は生温かい目だったのが納得いかないが)
俺は遂に美羽に作戦を実行した。
それは、図書当番で俺たち二人だけ放課後図書整理で残っている時だった。
「ねえ、美羽」
この頃には名前を呼びあえるくらいにはなっていた。そこに美羽からの愛情はなかったが。
「うーん、なーに奏多。」
美羽は本の整理をしながら俺に返事をした。
ふー、よし!やるか。
「あのさ、俺、美羽に頼みがあるんだ…。」
俺は出来るだけ深刻そうに話し出した。
その声に気付いた美羽は心配そうにこっちにやって来た。
「どうしたの?もしかして具合悪い?なんか元気なさそうだし。整理なら私だけで大丈夫だよ。奏多は早く帰りなよ。」
あー、やっぱり美羽は優しい。直ぐに俺の心配をしてくれる。
嬉しくてにやけそうになる顔を引き締めて俺は言葉を続けた。
「実はさ、美羽はもう知っているけど俺、女子が苦手でしょ。」
「あー、そうだねー。まあ、あれだけ追いかけられたらね。」
美羽は苦笑いしながら、俺の言葉に同調した。
よし、本番はここからだ
「でね、俺もこのままじゃいけないと思うんだ。そこで美羽にお願いがあるんだけど。」
「そうだよねー。このままだと奏多だって大変だもんね。私が出来ることなら手伝うよ。」
美羽は笑顔で俺に返事をしてくれた。騙すようだが、俺にはこうするしかないんだ。
俺は深呼吸してから美羽に話しかけた。
「ねえ、美羽。俺と付き合ってくれない。」
「えっ…!」
「女子が苦手な俺だけど、前から美羽とは普通に話せるって言ってたでしょ。だから、リハビリを兼ねて付き合っているフリをして欲しいんだ。」
ホントとは直ぐにでも結婚したいぐらいだけど、さすがにそれは美羽に引かれる。
美羽に嫌われたら俺はたぶん、生きていけない。
「フリって、いくら何でもそれはまずいんじゃ…。」
「俺が頼めるのは美羽しかいないんだよ。お願い俺を助けると思って。」
美羽の優しさに付け込んでいることはわかっている。だけど、今美羽に本当は好きで結婚を前提に付き合って欲しいと言ったところで、確実に断られる。
美羽は俺のことは友達としか思ってないんだから。
「うーん、奏多も女子への苦手意識を変えたいんだもんね。…分かったいいよ。私で良かったら協力するよ。」
「ありがとう、美羽。やっぱり美羽頼んで良かった。」
ホントとは抱き着きたいぐらい嬉しいんだけど、俺は笑顔で美羽に御礼を言った。
やっと一歩進んだんだ。ここで失敗するわけにはいかん。
俺は必ず美羽を手に入れるんだ。
ここから、俺の怒涛の攻撃が始まった。