その後 その8 真相
会いたいけど会いたくない。
今、私の心は矛盾した考えがグルグル回っている。
会って抱きつきたい、顔も見たくない、その考えはどっちも本物だ。
どうしよう………でも、好きになっちゃったんだもん……このまま別れるなんて嫌だ。
そうだよ!何で私がこんな想いをしなきゃいけないの?
悪いのは新庄さんなんだから……。
美羽ちゃんに説得されて私は新庄さんと話し合うことにした。
頭では分かっている、新庄さんが浮気なんてするわけないって、でも見ちゃったんだもん。
あれは絶対にキスだよ。
今もあの時のことが思い出される、新庄さんと、新庄さんの隣にいても見劣りしない女性のことを。
私にはない大人の女性の色気ってヤツを。
私は新庄さんにメールを送った。
電話だと上手く話せないから。
気持ちが落ち着くまでちょっと待ってほしいことと、3日後に会って話したいことを。
メールを送って1分もしないうちに返信があった。
……仕事中のはずだよね?今の時間って。
まあ、とりあえず約束は出来たから良いかな。
3日なんてあっという間だ。
3日あれば気持ちは落ち着くと思ったのに全然落ち着かない。
ふと考えるのは新庄さんと、新庄さんと一緒にいた女の人のことだ。
私ってこんなに女々しかったんだ。
ちょっとショックかも。
美羽ちゃんはすごく心配してくれている。
会えば必ずご飯ちゃんと食べなよ、と言ってくれていた。
食欲がなくて食べていないのがバレバレだったみたい。
こんなの私じゃない。
新庄さんと付き合ってから弱くなったのかな?
新庄さんのことで一喜一憂して………バカみたい。
待ち合わせは公園、お店だと大声とか出した時恥ずかしいから。
重い足取りで私は公園へと向かった。
……待ち合わせの時間の30分前に着いてしまった。
だって会いたくないけど会いたいんだもん。
……って、もういるよ!
新庄さんがもういる。
しかも直立不動で立ってらっしゃる。
なんかあの一体だけ結界でも張られているように近寄りがたい。
か、帰ろうかな?
私がその雰囲気にヤられて回れ右しようとした時、新庄さんが声をかけてきた。
「楓さん!」
そう新庄さんが叫ぶのと同時に私は彼の腕の中にいた。
結構距離あったよね?瞬間移動って出来るんだ……。
新庄さんは私の名前を何回も呼びながら私の頭を撫で続けている。
そしてこれでもかというぐらいギューっと抱きしめてきた。
い、いや、ちょっと痛いです。
「あ、あの新庄さんちょっと、その力をゆるめてほしいのですが……」
私の言葉にゆっくり新庄さんは力を抜いてくれた。
そして私の顔を見つめてきた。
「楓さん……3キロほど痩せましたね。」
うん、正解。
でも何でそんなに正確にわかるの?
「新庄さんは……って目のクマすごっ!」
いつもの完璧クールビューティの新庄さんじゃない。
クマが凄すぎる。
なんかこの新庄さんには誰も近づいて来ないような気がする。
「たかだか3日寝てないだけですよ。大丈夫です。それよりも楓さん……こんなに痩せてしまって……私はあなたに何をしてしまったんでしょうか?ずっとこの3日間考えていたんですが分からなくて。もしかしてこの間約束していたのに仕事が入ってしまったからでしょうか?……楓さん、ちょっと待ってて下さい、今仕事を急に押し付けてきた奏多様にお仕置きをしてきますから。」
お仕置きって……ヤバイ渋谷君がヤられる。
いくら魔王でも新庄さんにかかればひとたまりもない。
美羽ちゃんが悲しむからそれは阻止せねば。
「し、新庄さん!仕事が急に入ったことを私は怒ってませんよ!」
「なら、何故私の側を離れようとしたのですか?……ま、まさか他に気になる人が出来たのですか?楓さん、そんなのは気の迷いですよ。さあ、誰が楓さんの心に不法侵入しようとしているか私に教えて下さい。しかるべき手段を取りますのでご安心を。」
まずい、新庄さんの目が本気だ。
というか何で私の心変わりが疑われているの?
なんかムカムカしてきたぞ。
「新庄さん!私は心変わりなんてしていません!だって心変わりしたのは新庄さんじゃないですか?付き合う時に言いましたよね、他に好きな人が出来たら別れるって。何で私に何も言わないで他の人と付き合っているんですか?せめて私ときっちり別れてからにして下さいよ!」
「何を……言っているんですか楓さん!私があなた以外に興味を持つはずないでしょう?……そうですか、私の楓さんに対する愛の伝え方が足りなかったんですね?わかりました、今から私の家に行きましょう。そこでどれだけ私が楓さんを愛しているのか分からせてあげます。」
ちょっと待て。
私は怒っているのだ。
だいたいキスをしていたのは新庄さんだよ。
「新庄さん、私怒っているんです。だって私見ちゃったんですよ。新庄さんが、新庄さんが綺麗な女性とキスしているの!」
「え?」
「誤魔化すんですか?この間の急に仕事が入った日、私新庄さんに会いに会社まで行ったんです。そうしたら入り口で新庄さんと綺麗な人がキスしていました。」
「…………。」
「無言は肯定と受け取りますね。」
やっぱりなんだね。
私は捨てられるんだ。
私は悲しくなって下を向いた。
すると新庄さんの手が目に入った。
その手はキツく握られ、プルプル震えている。
そしてとても小さい声で何か呟いているようだ。
「………かった。」
「え?何ですか?」
新庄さんの目がすわっている。
こ、怖いよ。
何で?私ヤられる?
「ふっふっ、会社に永久立ち入り禁止なんて生温いことしている場合じゃなかった。ああ、そうだ今からでも遅くない、社会的に抹殺しましょう。私から楓さんを離れさせようとしたその所業断じて許せません。そうそうあいつの親の会社ごと潰せばいいか……。」
え?え?何か新庄さんから変なものでているんじゃない?
なんか理解したくないことをツラツラと述べてらっしゃる。
そんな新庄さんだけど私の方を見て、その綺麗な顔でとびっきりの笑顔を見せてくれた。
「楓さん、ヤキモチを妬いてくれたんですね?ああ、これほど嬉しいことはないです。でも、少しでも楓さんが私の側を離れそうになるなんてやっぱり嫌ですね。この間のこと説明させていただきますね。実はあの時は急に取引先の娘さんという人が来ていたんです。それが楓さんが見た人です。あの人仕事の用事だと言って来たのに全然それらしいことしないで話しているばかりで、ちょうど楓さんが見たのはお帰りいただく為に外に出した時だったんですよ。しかもその時つまずいたとか言ってくっついてきてキスされたんです。楓さんのそのご様子だとその後のことは見ていないんでしょうね。」
浮気じゃなかった……。
私の勘違いってこと?
「私……キスしているところを見てそのまま立ち去ってしまいました。」
「そうでしたか。あの後あの人はベリッと引き離してお帰りいただきました。もちろんキスされた口はその場でアルコール消毒させていただきました。その人の見ている前で。あと、取引はその場で解消です。あんなのを送り込んでくる会社なんて不要です。」
うわ〜、その場でアルコール消毒ってキッツイ。
「楓さん、私はあなた以外いらないんですよ。では、行きましょうか?」
そう言うと新庄さんは私をお姫様抱っこしだした。
「え、ちょ、ちょっと新庄さん降ろして下さい!」
「無理です。」
笑顔で言い切った。
「元はと言えば私の愛の伝え方が足りないのが問題だったんです。さあ、今から楓さんに分かってもらえるまでいっぱい説明してあげますね。大丈夫ですよ、言葉だけでは伝わらないようなので他の方法も考えていますから。」
「い、いや、大丈夫です。わ、わかってますから!」
私の願いは叶わなかった。
私はお姫様抱っこで運ばれ、そして……。
言えない、絶対に他言出来ない。
これ以降私は新庄さんを疑うことは決してしないと誓った。




