その後 その6 ホワイトデー
「第1回ホワイトデー対策会議を開催致したいと思います。」
突然の楓ちゃんの言葉に私はマヌケ面でぽかーんとしてしまった。
しかし、対する楓ちゃんは至って真面目なお顔だ。
むしろ鬼気迫る?みたいな。
「美羽ちゃん、ホワイトデーまで後ちょっとしかないんだよ!今から対策でも遅いくらいなんだよ!」
何やら力説している。
何だってこんなに必死なんだろう。
私が本気でわからない風な事に気づいた楓ちゃんは焦りを募らせた。
「美羽ちゃん!私の貞操がかかっているんだよ!今まで守ってきたものが奪われようとしているんだよ!絶体絶命の危機なんだよ!」
楓ちゃんはますますヒートアップしている。
とりあえず大学構内の喫茶スペースで貞操の話は辞めようよ。
しかし、私の願いもむなしく楓ちゃんは訴え続ける。
「あーー、もう、どうしたらいいんだろう…。毎日のメールがおかしいんだよ〜〜!何で『後少しで楓さんを頂けるんですね』とか、『楓さんはコーヒーはお好きですか?モーニングコーヒーは最高級の物を御用意致しますね』、そして極めつけは『私も不慣れなので一生懸命勉強しておくので、期待しておいて下さいね』ときたのですよ‼︎」
あー、なんか目に浮かぶわ。
新庄さんの笑顔が。
そういえば最近奏多も言ってたっけ、新庄さんがご機嫌でコワイって。
さて、どうやってこの目の前の哀れな子羊を慰めたものか…。
でも未来は決まっちゃてるんだけどね。
さすがの楓ちゃんでも今回の新庄さんからは逃げられないよ。
気合が違うもの。
というわけで私から贈れる言葉はこれだね。
「楓ちゃん、人間諦めも大事だよ。」
私の一言に楓ちゃんが泣き崩れた。
まあ、嘘泣きだけどね。いや、半泣きぐらいかな。
ところで前から気になってたことがあるんだけど、この際聞いてみようかな。
「ねえ、楓ちゃん。楓ちゃんは新庄さんのことどう思っているの?やっぱり今も付き合いたくないと思ってるの?」
私の質問に楓ちゃんが顔を上げて応えた。
「…嫌いではないよ。むしろ顔はど真ん中ストライク。性格に非常に難があるけど。残念ながら限りなく好きになりつつありますよ…。でも!想いが釣り合ってないっていうか、好意が明け透けすぎなんだよ。恥ずかしくて会話にならない時が多々あるのですよ。」
「惚気ですか…。」
「ち、違うよ!あー、何ていうかもう少しゆっくり進展してほしいのですよ。展開が早すぎてついていけないですよ。」
「でも、良かった。無理矢理付き合わされているならさすがにヤバイと思ったから。多少でも好意があって本当に良かったよ。」
「……よくない。よくないよ!とりあえずホワイトデーどうしよう。私、バレンタインあげないで貰った立場だからお返ししなきゃだし。 」
さすが、楓ちゃん。嫌でもお返しはするんだ。でも、お返しは迷わなくても大丈夫。プレゼントは楓ちゃんだから、って答えたらまた暴れるのかな〜〜。
何か感じるものがあったのか楓ちゃんがこっちを見ている。
「美羽ちゃんはどうするの?渋谷君から指輪貰ったんでしょう?」
「うん。奏多と話してホワイトデーは久しぶりにゆっくり2人で過ごすことにしてる。最近奏多が忙しいからそれが2人で納得のホワイトデーの過ごし方だよ。特にプレゼントのやり取りはしないでおこうって。いつまでも渡し合っちゃうからね」
「なんかいいな、そういうの。」
楓ちゃんは羨ましそうにそう言った。
ーーその頃
「おい、新庄。そのニヤけ顔なんとかならないのか?」
「何を言ってるんですか。私は至って普通の表情をしてますよ。」
「…気づいてないのか。なあお前ホワイトデーに約束ってしてるのか?」
「ええ、毎日メールで楽しみにしていることを伝えていますよ。」
それはきっと追い詰められているな。
今頃美羽に泣きついているか。
「あ〜〜、あんまりいじめるなよ。逃げられるぞ。」
「逃すわけないじゃないですか。」
実に悪い笑顔で言い切った。
俺には止められない。
頑張れよ〜〜。
ーーホワイトデー翌日
「奏多〜、今日新庄さんどんな感じだった?」
「……終始笑顔だった。」
「そっか。やっぱりね。ちなみに楓ちゃんは魂抜けてたよ。今日ぐらい休めば良かったのに…。新庄さんわざと楓ちゃんが見えない所に跡つけてたし。」
「マーキングだな。」
「楓ちゃん時々思い出したかのように赤くなってるし。奏多、新庄さんに程々にって言っておいてね。」
「無理だ。いくら美羽の頼みでもこればかりは。それよりもたぶん今以上に暴走する危険性がある。何故か結婚関係の雑誌を読み込んでいた…。」
「…気が早いね。もう逃げ道はないのね。」
「ああ、とりあえず結婚関係の雑誌のことは今は黙っておいて。これ以上の心の負担は可哀想すぎる。」
「うん。そうする。」




