その後 その4 新庄正樹の場合 ①
私はどうやら生まれて初めて『恋』をしているようです。
私の名前は新庄正樹。渋谷家の奏多様にお仕えしております。
多少顔が良いと言われているせいか、昔から色々な人が近づいてまいります。
そのためか、あまり人に興味がありませんでした。
状況的に近い奏多様のことも心配していた時期もありましたが、杞憂に終わりました。
もちろん、美羽様のおかげです。
少し羨ましく感じることもありましたが、ただそれだけでした。
奏多様が高校に入学してからは、学校までの送迎を担当致しました。
この御時世何が起こるか分かりませんので、護衛も兼ねて私が奏多様に付き添う事が主でした。
奏多様を待たせることなど無いように、校門で待たせて頂いていると必ず女子学生が集まってまいります。
何も面白いことなど無いのですが、近くで騒がれると迷惑だと感じるだけでした。
ただ、ある時から気になる存在が出来たのです。
彼女は遠くからこの騒ぎを眺めていました。
どうやらイベントとして楽しんでいる様に感じられます。
その事に気づいてから、彼女には気づかれない様に観察をしてみると面白い事が分かりました。
この私が囲まれるイベントを楽しむ為に、大きな騒ぎまで発展しない様に操作しているようなのです。
最初はそんな事があるのかと疑いましたが、実際目の当たりにすると信じるしかありません。
例えば、ある女子生徒が転んで倒れた時に誰よりも先に気づいた彼女は、他の女子生徒が倒れた子を傷つけないように、近くの生徒に「先生がこの騒ぎに駆けつけてきた」と言うウソを教えてその場にいた女子生徒へ伝達させ人が少なくなってから倒れた子を助けて出してました。
その際、自分はあくまでも目立てないようにしているということを徹底しておりました。
私には珍しく彼女を見るのが、この放課後の楽しみとなり始めていたのです。
思えばこの頃にはきっと彼女を好きになっていたのかもしれません。
奏多様が高校を卒業してからは彼女を見ることは叶わなくなってしまいました。
話したこともなかった相手です。
このまま会うことも、もうないと諦めておりました。
しかし、天は私を見捨てはしませんでした。
奏多様と美羽様の婚約事件の際に彼女にまた相見えることが出来たのです。
あの時は奏多様のことで大変でしたが、久し振りに彼女に会えてとても嬉しく感じておりました。
普段ならば女性に自分から声をかけることなどしないのに、その時ばかりは声をかけてしまいました。
とはいえ、話したことと言えば美羽様を呼んで欲しいということだけでしたが…。
しかし、彼女も私を見て笑顔を見せてくれました。
ただそれだけで、とても心が暖かくなったのを覚えています。
どうやら彼女と美羽様は友達のようです。
これはチャンスと捉えてよろしいですよね。
もう少し彼女を知りたいと思うのは、我儘でしょうか。
チャンスは不意に訪れました。
奏多様の仕事が忙しく、美羽様と会えない日が一週間続いたのです。
私もそろそろ奏多様が言うところの、美羽様パワーがなくなっているなと感じておりました。
仕事も一区切りついたところで早速美羽様に連絡を取っている我が主人。
奏多様が連絡を取っていると、奏多様が残念そうにこうおっしゃいました。
「あ〜〜、美羽、今木内と遊んでるんだって。やっぱりそこに邪魔するのはさすがにな…」
それを聞いた時私は、このチャンスを逃してなるものかと思いました。
早速行動に移ります。
「奏多様、行きましょう。奏多様には美羽様パワーが足りておりません!さあ、早くご支度して下さい。車の準備をして来ますので、急いで下さいね。」
私の剣幕に奏多様が驚いております。
今はそれどころではありません。さあ、早く。
私の殺気を感じたのか、奏多様が素早く用意をしております。
そうです、初めからそうして下さい。
私達は急いでその場所に向かいました。
到着し、まずは奏多様を降ろし私は車を駐車場に停めます。
そして気持ちを落ち着けて店へ向かいます。
店へ入り目的の人物を探します。
いました、彼女です。
奏多様と美羽様もおります。
お三方は私の姿を見ると驚いた顔をしています。
何故か周りの視線も集まっているような気も…。
すると、美羽様と彼女は席を立ちお手洗いへ向かったようです。
しょうがないので奏多様のところへ向かいます。
「新庄…何でここに?いつもは車で待ってるよな?もしかして、仕事で急用が出来たのか?」
「いえ、仕事の用ではありません。」
私の答えを聞いて奏多様は余計疑問が深まったようです。
そういえば、奏多様には彼女のことは何も言ってなかったですね。
そんな話をしている時に、私達に近づいてくる人達がいました。
いつものですね。
こういう方たちは話しても通じないので無言が一番だと私も奏多様も知っています。
何か言ってるようですが、私も奏多様も一切返事はしません。
そうこうしているうちに、お二人が戻って来られました。
奏多様、顔がにやけておりますよ。
美羽様を見つめる奏多様は先程の無表情が嘘のように表情豊かです。
その事が気に入らなかったのでしょう。邪魔者が乱入して来ました。
よりによって、奏多様の前で美羽様の悪口ですか。
しかも、彼女のことまで………。
ケシマスカ…………。
危なく黒い考えが浮かびそうでしたが、美羽様と彼女は外に行くことを選んだようです。
あの気が立っている者をそのままで良いのかとも思いましたが、騒ぎになりたくないので従います。
ただ、あの馬鹿者達がそれを許さなかったようです。
手に水を持ち美羽様を狙っています。
私は止めようと思いましたが、彼女の動きを見て思いとどまりました。
彼女がどうするのか、興味があったのです。彼女はちょっと考えて動きました。
バッシャー〜〜
見事に彼女が水浸しです。
でも、私は嬉しくなりました。やはり彼女は面白い。ちょっと考えて自分が水を被ることで騒ぎを収めようとしたのです。
しかも、負けん気も実は強いようです。
あー、私はやっと運命の人を見つけました。
私はすぐに動きました。
彼女、木内楓さんをいわゆるお姫様抱っこしたのです。
彼女はとてもびっくりしてました。その反応はとても可愛いものでした。
でもさすがです。私の腕から抜け出し逃げたのです。
ふっ、面白い。どこまで逃げられるでしょうか。
数日後、美羽様の協力もあり彼女に無事再会致しました。
今度は逃しませんよ。
必ず、手に入れてみせます。
私の「初恋」なんですから。




