第2話 side奏多
俺の名前は渋谷奏多。
自分で言うのもあれだが、顔は良い方だ。
それに、物覚えも良いので勉強にも困ったこともない。
有難いことに家は会社を経営していて、なかなかの有名企業だ。
そのせいか昔から人が寄ってくる。
特に肉食系の女が。
小学校は親の教育方針で公立に行った。
小さい頃からエリート校に通えば価値観が固まるとかで。
それに関しては別に構わない。
何より大切な人を見つけられたから。
感謝したいくらいだ。
小学校の低学年の頃はただ同級生の男子と遊びまくっていた。
あまり男子、女子の意識もなかったと思う。
それが変わり始めたのはいつだろう。
たぶん、女子は男子よりそういうことに敏感なんだろうな。
気づくと周りに女子が集まってきていた。
はじめは、俺も真面目に相手をしていたが、それに気を良くしたのか時間を取られることが増えてきた。
女子に追いかけられることが日常になってきた頃、俺はいつもだったら上手くかわすところをかわしきれず、本気で逃げていた。
廊下を全力で駆け抜ける。
鬼ごっこじゃないんだからそろそろ諦めてくれ。
曲がり角を曲がったところで突然横のドアが開いた。
そして、中から腕を掴まれた。
「しっ静かに。バレたくなければこのまま下に隠れて。」
はじめは驚いたが、追いかけられるのもいい加減面倒だった俺は素直に指示に従った。
そして、すぐにドアが開いて俺を追いかけていた奴らがやって来た。
「あれ、奏多君いないな〜。ねえ、ここに奏多君来なかった?」
俺を匿ってくれている子は、興味もなさそうに返事を返した。
「うーん、ここには来なかったよ。なんか廊下をバタバタ凄い勢いで走っていく音はきこえたけど。もしかしたら、あっちの方に行ったかも・・・。」
「えー、奏多君、足速すぎるよ〜。」
「今日はもう帰ろうか。」
「そうだね、ちょっと疲れちゃった〜。」
そう言って女子達は帰って行った。何がちょっと疲れただ。こっちは汗だくだっつーの。
「もう、大丈夫そうだよ。出てきていいよ。」
そういえば俺を匿ってくれた子は誰なんだ。
同じクラスではないようだが。
「大変だね。早く帰った方がいいよ。また見つかったら追いかけられるよ。」
「ありがとう、助かったよ。」
珍しく俺は笑みを浮かべて礼を言った。
「うん。別にいいよ。いつも大変そうだし。たまたま助けられそうだから手助けしただけだから。」
「いや、実際かなり助かったよ。ところで俺は渋谷奏多。君は?」
「うん、知ってる。有名だし。私は隣のクラスの葛城美羽。」
俺のことを知っていても普通に話してくれる女子はかなり珍しい。
いや、珍しいどころではない。ここ最近いなかった。
あれ、言っててちょっと悲しいぞ。
「葛城さんは、ここで何を・・・って図書室かここ。」
「そう、図書室。私、図書係なの。でも誰もいないけどね。」
ちょっと恥ずかしそうにそう答える彼女はさっきまでの冷静な感じと違い、かわいく感じた。
ん、かわいい?
いや、俺。ちょっと普通に話せただけでかわいいって、ちょろすぎるだろ。
落ち着け。はーー、ふーーーー。
ん、大丈夫、大丈夫。俺は正常だ。
「ところで、ここいいね。俺、また来てもいいかな。」
うおーーい。なんでまた来るなんて言ってるんだ、俺。
無意識に口が動いていたよ。怖いな無意識。うん。
「別にいいけど。それに図書室なんだし。でもうるさい人は連れて来ないでね。」
そう言った彼女はちょっいたずらっぽい笑みを浮かべていた。
うん、その顔もイイ!
よし、認めよう。俺は葛城さんを、いや美羽を気に入った。