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お馬鹿な勇者を吹き飛ばそう

作者: 音夢衣

イケメンの勇者というだけで、世の女性を虜にするだろう。それも、歴代最強と言われる程の強さならば、夢中にならない人はいない。現に彼の武勇伝は凄まじかった。

曰く、ゴブリンの大群相手に1人無双しただの、速さに評判のある猫タイプの魔物相手に追いかけて切り結んだだの、硬さに評判があった大ワニ相手に胴体を真っ二つだの、果ては最恐と恐れられたドラゴン相手に果敢にも挑み、圧勝しただの・・・・。これら全て事実である。身近で見ていたからこそ最強と言われる強さも良く分かった。


今も新たな街に着いた途端、町のあちらこちらから勇者一行を見るために人が溢れてくる。その中にいる街娘達も目がハートだ。魔法使いとして勇者一行に加わり、数々の彼の栄誉と人となりを見てきた私は、その視線にうんざりしつつため息をついた。


この勇者に夢中にならない女性はいない。ただ一人私を除いては───


ご飯の注文すればウェイトレスにちょっかいだし(そのまま勝手に消える)、薬屋に寄れば店番の娘をナンパする(娘共々どこかへ消える)。広場に向かえば街行く娘達とデート(パーティー一行に戻るのは翌朝)と、目を離すとロクなことがない(必ず消える)。こんなダメ男のどこがいいのか分からないが、一緒に旅する治療士の女性も熱烈ラブコールを送る毎日だ。騎士と傭兵はそんな勇者を冷めた目で眺めている。とてもじゃないがこのパーティーで連携はありえない。個々で勝手に殲滅というパターンで、ほぼほぼ勇者が無双するおかげ?で騎士や傭兵がこぼれた敵を相手にする程度でなので、魔法使いとして何もすることがない。野営の火を熾したり、皆のご飯の面倒を見る程度だ。何だか召使にでもなった気分だ。

今日も野営のために、騎士と傭兵は薪を拾って来てくれたが、その後は火の傍に座り込んだままだ。勇者は治療士の彼女と食材探しに行っている。そんな中私は、野営地に結界で魔物が入らないようにして、干し肉や野菜をウィンドカッターで細切れにし、鍋に食材をいれた後ウォーターで水をはり、スープを作る。日持ちする硬いパンは軽く炙り、ミストで柔らかく仕上げておしまい。食材を探しに行ってるはずの勇者と治療士は毎回帰りが遅いので、3人で先に食べてしまう毎日だ。毎回思うが何でこんなにバラバラなんだ…。


もともと、後衛として前衛職の負担を軽減するために呼び出されたパーティーなのになぜおさんどん係になったのだろう。釈然としない。


こんな苦痛だらけの旅も、魔王を倒せば終わると思っていたのだ。


囚われのお姫様を助けに魔王城に来てみたが、肝心の魔王は弱々で勇者のデコピン一発に泣きべそ堪えてぶるぶる震えてる始末。あまりにも肩透かしだったので、人に悪さしないことを約束させて退治終了。


お姫様がいるという部屋の鍵を受け取り、救出に向かうと、優雅にティータイム中だったらしく豪華な椅子に腰掛け、紅茶を片手にドアを見ているではありませんか!これは、我儘なお姫様が王様と喧嘩して家出し、魔王城で女王様として君臨なされてるという噂が本当だったのですね…なんかもう色々と疲れました。


「助けに参りました。お姫様」


勇者の言葉にお姫は涙ながらに駆けつけます。いきなり目の前がラブシーンです。なんですかこの目前の熱々空気と背後の冷気の差は。しかもお姫様、駆け付ける途中に何か踏みましたよね?よくよく見てみれば魔王の使い魔じゃないですか。その背中に足跡がくっきりとついてます。

王様はお姫様が魔王に囚われたと言っていましたが、城内の噂は家出したお姫様が魔王城に居座ったというお話ですが、噂が本当のようです。でないとお姫様の様子や魔王の弱さが説明つきませんものね。

さて、目のやり場に困るラブシーンは勇者がお姫様抱っこして、王様のお城に向かおうとしていますが、こんなアツアツ冷え冷えな空気など苦痛でしかないので、さっさと帰還(テレポート)することにします。王城までご案内~。


あ、姫様からニラまれたのは気のせいということにしておきましょう。


無事(?)姫様を届け、王様も満足そうです。


「良くやってくれた。褒美に何でもしよう。」

王様がすごい太っ腹です。ここはひとつ、旅も終ったことだし、静かに過ごせるよう実家に帰ってゆっくりしようと思ったところ、勇者が発言しました。


「魔法使いと一緒に暮らす家を頂きたい。」


ただでさえ色々と疲れていた私は、勇者のマントに今までの鬱憤を全てのせた全力の爆発魔法(バースト)をかけました。綺麗に吹っ飛んでいく勇者。それを茫然と眺めたお姫様に治療士。なぜかすごい笑顔でこちらを見てくる王様・騎士・傭兵。なぜだかすごい嫌な予感がします。嫌な汗が背中をつたった頃、沈黙していた場から声が上げられました。


「魔法使いとこれから先も旅に出ようと思います。金輪際こちらに関わらないでください」


傭兵からなんとも素敵な提案が出ました。涙が出そうです…。なんで実家に帰らせてくれないんだ!?傭兵の隣にいた騎士も便乗してきます。


「私もこの旅で自分の力の足りなさを痛感しました。旅に出て見聞を広めつつ、さらなる力を求めようと思います。こちらの魔法使い様と共に」


気のせいか傭兵と騎士で火花ちってないか!?もうこんな人達相手にするのはこりごりだ!!こちらの要望も通さないと何かに巻き込まれてしまう!


「実家に帰ります。もう自分に関わらないでください」


「それは「「無理」だ」のう」



無常にもすごい笑顔をいただいた3人からのきれいに重なったダメだしでした。。。

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