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決着は、意外なものだった。
「……嘘」
少女の開いた手が震えている。
少女はこの結果が信じられないとでも言うように自分の出した手と陽介の顔を交互に見る。
「私の、負け……?」
少女の開かれた手に対し、陽介の手からは指が二本伸びていた。
「なんで……!なんでチョキを出してるの!?確かにグーを出すって考えてたのに!」
そう、少女はその能力で完全に陽介の心を読んでいた。ジャンケンの掛け声と共に能力を使い、陽介がグーを出すと読んだ。だからこそ彼女はパーを出したのだ。それなのに、いざ結果を見てみると、いつの間にか彼はチョキを出していたのだ。
「一体どんな能力を……」
少女が必死に頭を回転させて考えようとした時、異様に喜んだ陽介の声が駄菓子屋中に響いた。
「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉっしゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!!」
「うるさっ!!何なんですか!?」
「遂に、遂にガリガリリ君を食べるときが来たあぁぁ!!」
言うと陽介はカウンターに置いてあった当たり棒を手に取った。
「これで、やっと食べれる!ありがとうジャンケンの神様!ありがとう当たり棒!」
陽介は当たり棒片手に今にも踊り出しそうな勢いだ。たかが60円程のアイスを食べれるだけでこの喜び方は少し行き過ぎなのではないかと疑うほどに。
しかし、少女にとって当たり棒など今はどうでも良かった。それより、一体陽介がどうやって自分に勝ったのかが知りたかった。
「新木!当たり棒は差し上げますが、一体どうやって私に勝ったんですか?確かにグーを出すって考えてたのに!」
彼女の『あらゆる事象を見透かす』能力の前ではあらゆる小細工は通用しない。思考と別の手を出すとか、右手でジャンケンをして勝負の際には左手にすり替えるなどと言った事も、彼女が能力を発動させた瞬間に全て見透かしてしまうのだ。いわば、答えが分かるのである。だが、陽介はその能力に勝ったのだ。全戦無敗の彼女にとって、それはあり得ない出来事だった。
しかし陽介はそんな少女の問いかけには気付かず、まずはこの店のおばあちゃんを呼ぶためのブザーのスイッチを押してから、「おばあちゃーん!アイス交換ねー!」と言って、当たり棒をペットボトルを切り取って作られた容器の中に入れた。
しばらくして上の階からゆっくりとおばあちゃんが下りてくる音が聞こえると、陽介はガリガリリ君のソーダ味を手に取った。
「これだよこれ!これを俺は待ってたんだ……!」
包装を開けると中から水色の長方形の形をしたガリガリリ君がその姿を現す。夏の気温で取り出したガリガリリ君からは冷気が放出されていて見るからに美味しそうだ。
陽介はガリガリリ君を一口かじった。
「うっまい!!一気に口の中に冷たいアイスが溶け込んできてそれと同時にソーダの風味が口の中に広がって行く!!」
「ちょっと!私の話を聞いてよ!」
「いやー、最高だ!」
一度食べ始めた陽介は止まらない、そのままシャクシャクと食べ進めるとすぐにガリガリリ君を食べ終えてしまった。
「……、そろそろ良いですか?」
「え、何が?」
陽介はまるで今初めて話しかけられたといった様子だった。
「何度も言ってるじゃないですか!何でチョキを出せたんですか!?」
「え、あぁ。だから言ったろ、俺も本気で勝負するって」
食べ終わったガリガリリ君の棒を確認しながら陽介は答えた。
「俺のアビリティ。『時間を止めれる』んだよ」
さらっと言って陽介は食べ終わったガリガリリ君の棒を少女に差し出した。
「ラッキー♪」
と笑いながら。
少女が受け取った棒を確認すると、そこにはこう書かれていた。
『当たり!もう一本プレゼント!』