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『あらゆる事象を見透かす』それが彼女のアビリティだった。
彼女がこの能力を使えば相手の心の内を探ることは容易いことだ。そんな彼女がジャンケンで負けると言うことはまずあり得ない。相手が何を出してくるのか分かっているのだから。
「新木、残念ですがジャンケンでは私には勝てません。負けたくても負けれないんです」
「確かにその能力だったらジャンケンじゃ負けなしだろうな……」
言って陽介は一つの疑問が浮かぶ。
「でもそれなら、あの時観た星は何だった
んだ?地面に広がってただろ」
あの時観た光景を思い出し、陽介は少女に問いかける。彼女の能力が『あらゆる事象を見透かす』事だと言うなら、あの星は一体何だったのだろうか?かと言って、二つのアビリティがあるとは考えにくい。アビリティの二つ持ちなんて、聞いたことがなかった。
しかし少女の反応は軽かった
「あぁ、あれなら今も出来ますよ?」
「え?」
言うな否や、少女は天井に右手をかざした。
そしてかざした右手で円を描くように一回転させた。
「おぉっ!?」
思わず声が出た。それも無理もない。少女が右手で円を描くと同時に天井が『消失』した。
「なんだこれ!?お前天井吹っ飛ばしたのか!?」
「何言ってるんですか。違います」
そうは言っても目の前には青空が広がっている。
真夏の日差しもそのままだ。
「これは、『見透かしてる』んですよ。『天井』を」
言葉の意味がよく分からない。見透かした?何を?天井……??
「……意味不明」
「そのまんまの意味です……。なんかムカつきますね、その言い方」
少女はため息をついたが、陽介は今この少女は何をしてるのか分からなかった。
「説明するよりも、観てもらう方が早いですから」
言って少女はかざしたままの右手をもう一回転させた。瞬間、起こった出来事に陽介は驚いた。
「……すげえ」
さっきまで青空が広がっていた天井は、満点の星で埋め尽くされていた。
「どうですか?凄いでしょ、私の能力」
少女は笑みを浮かべて自分の能力を誇張した。
「マジですげえな……。これもお前のアビリティか……?」
そうです、と少女は答えると今起こった事について説明してくれた。
「私のアビリティは、『あらゆる事象を見透かす』ことです。あらゆる事象なんて言い方は大雑把なもので、私が色々な物を見透かし過ぎるからこんな纏めた言い方をしているんです」
確かに、あらゆるなんて言い方は他の町民には聞かない。だいたいの人は『炎を出す』能力とか、聞いて理解しやすいものだ。
比べて彼女はあらゆる事象なんて言うどこからどこまでか範囲が分からない曖昧なものでしかなかった。
「見透かすものに、限度はありません。何でも見透かせます。新木の心も読もうと思えば読めますし、今みたいにこの天井を見透かして、宇宙を観ることも出来ます」
「……え、いや待てよ。これって、せいぜい天井に星を映し出してるとかそんなんじゃないのか?」
「そんなわけ無いじゃないですか。そんな映画みたいな能力、私にはありませんよ」
驚いた。こんなアビリティはそうそういないだろう。
「だから、ジャンケンだったら不公平になるんです。主に新木に」
少女が陽介を上から見下ろしている事がヒシヒシと伝わってくる。しかし、ここで下がる陽介ではない。
「いや、いいぜ。勝負は予定通りジャンケンで勝負だ」
その言葉を聞いて少女はあははと笑った。
「今の話聞いてましたか?心が読めるんですよ?新木が勝てるはずは……」
「いや、勝つ」
少女の声を遮って陽介は言った。
ムッとした少女に陽介は更に宣言した。
「俺の心を読むなら読んで良い。これは真剣勝負なんだ。本気の戦いだぜ?変な気遣いしてもらっても困る」
「それ、本当に言ってるんですか?アビリティ、使っても良いって事?」
「そう」
何なんだこの自信は……。少女はやろうと思えば今すぐにでも陽介の自信を見透かすことが出来る。しかし、それはあまりしたくなかった。何でもかんでもこの能力で答えを知ってしまうことは良くないことだと考えるから。
そのかわり、と陽介は言い。
「俺も本気でやらせてもらうぞ」
と、ニヤリと笑った。
「そう言えば、新木も能力者ですよね。本気ってことは新木も能力を使うって事?」
「まあ、そう言うことだ。何なら俺の能力も見透かすと良い」
「いや、その必要はありません。どんな能力でも私の勝ちに変わりありませんから」
少女は握った拳を陽介に向ける。
それを受け陽介も同じ様に構える。
駄菓子屋を舞台に、アイスを賭け、今ここに一つの戦いが大きな掛け声と共に幕を開けた。
「さーいしょーはグー!ジャンケン……!」