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「ぜってえそのあたり棒だけは渡せねえ……」
「必死ですね……。そんなに『私の』あたり棒が欲しいなんて」
「いや俺のだよ」
正直、陽介の必死さは周りから引かれるレベルだった。たかが60円程のアイスのあたり棒。それぐらいこの子に上げて、また買えばいいと思ってしまうが、陽介はこのあたり棒でアイスを交換することに意味があると考えていた。
「いいか、元々それはお前のじゃなくて落ちてたものだ。そしてその落とした人こそこの俺なんだ。仮に俺じゃなかったとしてもお前がそのあたり棒を独占する権利は無いと思うけどなあ」
陽介の言葉を聞いて『うっ』と少女が若干後ずさった。
「確かに、これは私の物じゃありません……」
「だろ?」
「でも……」
そう言った後少し俯く。
しばらく待つと少女は顔を上げハッキリと自分の意志を伝えた。
「私だってアイス食べたいもん!」
「……」
シンプルだった。
「へっ、良いじゃねえかその理由。だが俺だってアイスが食べたい!かれこれ三時間は我慢している!それなら!」
ビシッ!と少女に人差し指を突きつける。
「俺との勝負を受けろ」
「……はぁー」
大きなため息。この少女は俺のことに呆れているのだろうか。だが少女はキッ!と目を強め陽介を正面から捉えた。
「良いですよ、この勝負乗りました。この勝負とやらでどっちがアイスを食べるか白黒付けようじゃありませんか!」
意外と乗ってきたな。それにこの子の目は本気だ。まるで獲物を狩る獣のようだ……!そんな事を考えていた陽介だったが、少女の「正し!」と言った言葉に我に返る。
「私と新木じゃ体格差がありすぎです。駆けっことかそう言うのも多分勝てません。だからちゃんと公平に勝負出来る競技にして下さい」
少女のから提唱されたルールを聞いて陽介はポカンとする。
「何言ってんだ。誰でも公平に勝敗を決めれる最高の競技があるじゃねえか」
陽介の言葉を聞いて今度は逆に少女がポカンとした。
「え?そんなのがあるんですか?」
「当たり前だろ。老若男女問わず誰でも公平に勝敗を決めれる最高の競技があるじゃねえかよ」
「それは何と言う競技なんですか?」
一つの物を争ってどちらがそれを手に入れるか。それを決めるためだけに生まれてきた言っても過言ではない競技。それは。
「ジャンケンって言うんだよ。知ってるだろ?」
そう。ジャンケンこそがあらゆる物事を平等に決める事が出来る最高の競技だ。さらにそこには心理的要素も加えることが可能で意外と奥が深い。
だが少女の反応は陽介が考えてもいない意外なものだった。
「え!?それは一番平等じゃありませんよ!?」
「何でだよ!?老若男女問わず誰でも出来る最高の解決法じゃんか」
こんなにジャンケンについて褒め称えていたのに、この少女の一言はジャンケン最高説を一瞬で崩壊させた。
「て言うか何で平等じゃないんだよ」
陽介の問いに少女は即座に答えた。
「だって、今までジャンケンで負けたことは一度もないから」
「今までって、一回も?」
そう、と少女は答える。
「それはねえだろ。ジャンケンなんて殆ど運の遊びだぜ?それとも心理戦が上手いとかか?」
「そんなんじゃなくって……、もっと簡単な事です」
簡単な事?何だろうか?ジャンケンに必勝法なんて……。真剣に考える陽介の姿に、少女はどうして分からないんだと不思議に思った。何故ならこの町ではもっと簡単な理由が存在するからだ。
「だから!アビリティですよ。アビリティ」
アビリティとは超能力の事だ。この町に住む者なら誰しもが超能力を持っている。
「あぁー……」
そんな根本的な事を念頭に置いていなかった陽介はなるほどと感心した。だが、それなら一つ疑問がある。
「でも、お前のアビリティは『星を観る能力』だろ?それは全くジャンケンに関係ないんじゃ……?」
陽介は馬鹿ではない。この町に住む者の殆どがアビリティ持ちだなんて事は当然知っているし、人によってアビリティは様々だから、相手の能力によって不公平にならないようにそれにあった解決法を探すのが常識だ。だからこそ、陽介はジャンケンはうってつけの解決法だと思ったのだ。彼女が『星を観る』能力者だと知っていたから。
「それは新木が勝手に思い込んでいるだけです。私のアビリティはそんなにショボくはありません」
「そうなのか?俺は良いと思うけどな『星を観る能力』」
陽介は意外とロマンチストだ。観覧車の一番上で告白とかは大好物である。もし振られたとしたら降りるまでは地獄だが。
「あまり私のアビリティは言いたくないのですが、アイスを賭けた真剣勝負に支障を出したくないので今回は特別に教えてあげます」
「名前は教えてくれないのにな」
「そう言えばそうですね。じゃあ私がアイスを食べれたら何もなしの新木が可哀想なので変わりに名前を教えてあげます」
「いや、その心配はないぜ。どんな能力でも俺が勝つからな」
「ふっ、そんな事を言ってられるのは今のうちです。私の能力でジャンケンに負けることはあり得ません」
言うと少女はさっき陽介が少女にしたようにビシッと人差し指を突きつけるとその能力を明かした。
「私のアビリティは、『あらゆる事象を見透かす能力』です!」