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FREEDOM  作者: 蛞蝓
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2

 あれから陽介は近所のスーパーに向かっていた。しかも自転車は壊れてしまっているので歩きである。

「暑い、ダルい……」

 あの後、父に食べられたガリガリリ君が当たりだったことに気付きコンビニまで交換に行こうとしたのだが、ついでに買い物まで頼まれてしまったのだ。お釣りはお小遣いでやると言われてしまったため、断るに断れなかった。

「俺スーパーに着く前に、死ぬかもしんない……」

 自転車があれば5分で着くのだが、歩きなので10分はかかるだろう。おまけにこの暑さのせいで体力はジリジリと削られていく。

 結局陽介がスーパーに着いたのは、家を出てから15分後の事だった。

 自動ドアをくぐるとスーパー内の冷気が一気に吹き抜けてくる。

「やっべえ……!一瞬、一生スーパーにいたいと思ってしまったぞ……!」

 クーラーの効いた店内は部屋にいるときよりも快適だった。

 父に頼まれた物を買い物カゴに入れながら店内を周る。

「こっちの方が安いな……。これにしよう」

父から渡されたお金は3000円。これの余りがお小遣いになるのだから、なるべく安い物を買ってお小遣いを増やそうと言う作戦だ。中々せこい男である。

「お会計1892円になりまーす」

陽介は支払いを終えると外へ出た。

「やっぱ暑い……!」

また15分も歩くのかと思うと憂鬱になったが、帰ってガリガリリ君を食べると思うと暑さも我慢できると言うものだ。

陽介はポケットからあたり棒を取り出す。

「なんせこの『あたり棒』があるからな」

言いながらあたり棒を眺めていると、道の端に女の子がしゃがんでいるのが見えた。

「……、ん」

 陽介は立ち止まり、少女を見る。

 白のワンピースに可愛らしい麦わら帽子。

 ロングヘアーの間から見える横顔は、何かを見つめている様にも見える。

 小学四年生ぐらいだろうか。

(なんか落ちてんのか……?)

 少女の視線の先が気になり、ふと少女の見つめる先に目を落とす。

 だがそこに広がる光景を見た瞬間息を呑んだ。


 星だ。


 少女の見つめる先には星が広がっていた。

(なんだあれ……!?星……!?)

 星は水たまりくらいの大きさで広がっておりその光景を少女は見つめている。

 どうやら少女は陽介に気付いていないようで、ジッと星を見つめている。 

「綺麗……だな」

「……ッ!?」

 自然とこぼれたそんな言葉に少女は気付き、ハッとして立ち上がった。

 少女が立ち上がるとさっきまで広がっていた星は霧の様に消えてしまった。

「あぁ、悪い、驚かす気は無かったんだけどさ」

「……」

 若干少女は陽介のことを警戒しているようだ。

「さっきの星、綺麗だね……。それが君の能力?」

 『能力』と言う言葉は別に少女をからかって言っているわけではない。あの『1111事件』があった影響で、この町を中心として多くの人が能力持ちとなったのは記憶に新しい。

 能力持ちは世界的に見れば少ないが、事件の中心部であったこの町の住民であれば、逆に能力持ちである方が普通なのだ。

 近所のおばさんや子供でさえ色々な能力を使うこんな町で、星を観る能力なんて可愛い物じゃないか。

「……そうです、今のは私の能力です」

「やっぱりなぁ~!最近は能力使った事件とか多いけど、星を観る能力なんて良い能力だな」

 能力は人それぞれで、ベタなところで言うと『サイコキネシス』なんて物から『肩が強い』なんて言う能力かも分からないような物もある。

 この都市化した現代では綺麗な星は中々観れない。その中で『星を観る能力』。素敵じゃないか。

「……います」

「え?」

微かではあったが少女が何か言ったような気がした。

「……違うんです」

 今度は少女は確かに言った。

「違うって、何が?」

 少女は何か言おうか迷っているような素振りでいたが急にあっ!と声を上げた。

「どうした?」

「そ、その袋の中に入ってるそれって……!」

 袋?袋と言われればさっきスーパーで買ってきたこの買い物袋しかないが……。

「それってもしかして、チョコレートでは!?」

「え?あぁ確かにチョコレートは入ってるぞ」

 少女は陽介の買い物袋のなかのチョコレートが欲しいようだった。少女はさっきの警戒した態度はどこへやら、やたらと目を輝かせてくる。

「そんなに欲しいのか?チョコレート」

「欲しいです!チョコレートってとっても美味しいんでしょ!?」

「え、なに、チョコ食べたこと無いの?」

 少女はコクコクと頷く。この年でチョコの一つや二つ食べたことがないなんて、もしかして貧しい家庭なのだろうか?

「いいよ、チョコぐらいあげるよ。一袋24個入りだしな」

「本当に!?やったー!」

 そんなに嬉しいのだろうか。陽介は買い物袋からチョコレートを取り出そうと袋を探る。だが他の食品などが邪魔でなかなか取り出せない。

「……よし、ほらよ」

 少ししてチョコを取り出すと袋を開けて少女に差し出した。

「そんなに好きなら手掴みで好きなだけ取っていいぞ」

 少女はさらに目を輝かせている。

 しかし、ここで一つ陽介は気になった事があった。

(なんでチョコが入ってるって分かったんだろう……)

チョコレートは結構奥の方に入っていて隙間からチラッと見えたとは考えにくい。

それに買い物袋はエコバックだ。コンビニのビニール袋ではない。

と、そんな疑問を抱いていたとき

「じゃあありがたく頂きます!」

「え?あぁ……って多っ!!」

両手一杯にチョコレートを抱えた少女が笑っていた。

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