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この物語はフィクションです。
登場する団体名、地名、名前等には一切関係はありません。
夏のある日、僕は1人の少女に出会った。
少女は無邪気で生意気で、初めは鬱陶しいとか思ったけど、いつしかこの少女を守ってあげなくてはならないと思っていた。
まだ小さくて幼くて、いつも明るく振る舞っているのに、ただの可愛らしい女の子なのに、彼女はとても大きな闇に囚われていたんだ。
これは、ひと夏の思い出と、僕と彼女の頑張り物語。
*
「……暑い」
8月10日。
全国的に猛暑日が続く中、今日は特に暑さを増しているようだった。
新木陽介17歳、高校生。
今は夏休み真っ只中で、彼はどこかに友達と遊びに行くなどもせずに家でダラダラしていた。
友達からの遊びの誘いも何度かあったのだが、そのほとんどを『暑いから』の理由一つで断っていた。
「こんな暑いのにバーベキューだとかあり得ねえだろ……」
1人ぼやきながら扇風機に当たる。彼の部屋にはクーラーは無いのだ。
「アイス食べよ……」
アイスを食べに階段を下りて居間へと向かう。
昨日買ってきた『ガリガリリ君』が冷凍庫に入っている。陽介は冷凍庫を開け『ガリガリリ君』を手に取った……。ハズだった。
「ない、ない……!俺のガリガリリ君がない!」
昨日コンビニで買ってきたはずの『ガリガリリ君』が冷凍庫のどこを探しても見当たらない。
間違えて冷蔵庫に入れてしまったとも考えて探してみるがやっぱり見当たらない。
「あり得ねえだろ……。まさか俺が寝ぼけて食ったとか……」
一瞬考えそれはないと否定する。
となると……。
「おーう、陽介ー。降りてきてたのか」
振り返るとテレビの前で寝転びながら声をかけてきた人物と目が合う。
「今日も暑いから、熱中症にならないように気をつけるんだぞー。父さんも暑いからこれで熱中症予防だ」
声をかけてきた人物は陽介の父である新木浩一だ。彼も今は夏休みという訳だ。
だが陽介からすれば家に父がいるとかはどうでも良い。注目すべきは父のその手に持つものだ。
「父さん、その熱中症予防のために食ってるそれって……」
「おーうこれ上手いよなー。父さんが子供の頃からあるんだぞー“ガリガリリ君”」
ニッと笑って浩一は言う。
棒だけになったガリガリリ君の姿がそこにあった。
「俺のガリガリリ君ーーーーーー!!!」
今年一番の猛暑日に陽介の叫びが響いた。