天女 四
「おおおッ!」
源龍の咆哮轟くとともに大剣振るわれて、屍魔どもは打ち砕かれてばらばらになってゆく。
その破片はぼたぼたと地に落ちてもなお、もぞもぞと動いている。
香澄も七星剣を振るえば、閃光ひらめくたびに屍魔どもは斬られて。破片を地に落としてゆく。その破片も、もぞもぞと動いて。
首などは恨めし気に源龍と香澄を睨んで、口をぱくぱくさせている。
それを源龍は思いっきり踏みつけて粉々に砕く。
「まったく不気味な奴らだぜ」
舌打ちして、屍魔どもを見据えて。大剣を振るう。
周囲を見れば、屍魔どもはどこからどう出たのか、竹林の中せましと集まっている。おそらく第六天女がどこぞで屍を見つけて拾い、つれてきたのであろう。
そういうことができる女なのだ、第六天女は。
「屍魔の女王か。悪趣味極まりない」
その第六天女と出会って、自分は何を要求したことか。
(第六天女の悪辣さを見抜けなかったとは。やれやれ、おれもまた馬鹿な奴だ)
大剣を振るっては屍魔を打ち砕き。破片を踏みつぶしてゆく。
大剣や七星剣によって斬り落とされた手足に首、胴がもぞもぞと動く。忌々しそうに源龍がそれらを踏みつぶそうとした、そのとき。
地に落ちていた手が、足が、首が突然飛び上がって源龍と香澄に向かってくるではないか。
「何ッ!」
これに源龍たいそう驚き、飛来する手足に首、胴を打ち返してゆく。香澄も同じように、飛来する屍魔の部位を七星剣で打ち返すように斬ってゆく。が、その表情は、知っていたとばかりに落ち着いたものだった。
「前にでくわしたときは、こんなことなかったぞ!」
飛来する首を大剣で打ち砕きながら、目前の屍魔に向けて鋭い突きを食らわせようとし、その胴を貫き砕くかと思われたが。
なんと、屍魔は大剣の剣先を両手で挟んで止めてしまったではないか。
「なッ!」
これには、さすがに驚き背中に冷たいものが滑る感覚を覚える。この屍魔ども、日ごとに強くなっているというのか。
いや、この驚きで動きが一瞬止まり隙を見せてしまった。気が付けば屍魔どもとの距離は縮まっている。屍魔どもは源龍を食わんとせんがばかりに大口を開けて、伸ばす手が源龍の肩に触れた。
「ふざけるな!」
渾身の力を込めて大剣を持ち上げれば、剣身は屍魔ごと持ち上がって。そのままぐるんと回りながら勢いに任せて屍魔を打ち砕き。間一髪で餌食になるのを免れた。
剣先をつかんでいた屍魔もこれにはたまらず手を放し放り投げられてしまい頭から墜落してしまった。
「化け物どもめ……」
力の限り戦い、屍魔の数もだいぶ減ったと思われるが。それでも、まだまだうじゃうじゃと屍魔どもはいる。
この者どもには、恐怖というものがない。だからこその、化け物どもなのだが。
「これは、馬鹿正直に相手するこたあねえぜ」
源龍は周囲を見渡し、忌々しく舌打ちする。
道を見れば、そこにも屍魔があふれている。しかしゆくしかない。竹林の中をめくらめっぽうに走っても道に迷うだけだ。ならば、屍魔どもを打ち砕きながら道を突っ走るしかなさそうだった。
「いくか……」
と地を踏みしめたとき、突然足首を何かがつかんだ。それは屍魔の手だった。地に落ちてもぞもぞと動いて源龍のもとまで来たのを気付けなかった。
「しまった!」
と思うも遅い。手は思いっきり後ろに下がれば、源龍の足は引っ張られて体勢を崩して転倒してしまった。
倒れたところに一斉に屍魔どもが大口開けて迫ってくる。
南無三。これでしまいか。
倒れながらもしっちゃかめっちゃか大剣を振り回すが、心のどこかで、もうだめだ、と思ってしまった。