終劇
サタンは地に沈んだ。
源龍と龍玉は肩を抱き合って。虎碧は静かにたたずんで。三人の目は香澄に向けられていた。
「もっと早くこれを思いつけばよかったね」
そう言うと高く跳躍した。虎碧は肩を抱き合う源龍と龍玉に抱きつくように腕を回せば、高く跳躍した。
洞窟の岩盤の天井に裂け目がある。ここから落ちてきたのだ。その裂け目を抜ければ、五重の塔のところまで戻り着地をすれば。先に出ていた香澄が横たわっていた。
三人は急いで駆けより、身をかがめて香澄を見れば。
彼女は微笑んでいだ。サタンを倒せた、というだけではない、なんとも言えぬほどの安堵の微笑みだった。
それが何を意味するのか。察した三人はかける言葉が見つからなかった。
「これで、土にかえれる」
静かなつぶやきとともに、静かに目が閉じられた。
反魂玉の効力が切れて、香澄は屍にもどったのだ。
「思えば、かわいそうな奴だったな」
源龍はぽそりとつぶやき。手を合わせた。同じように、龍玉と虎碧も手を合わせて、冥福を祈った。
それが済むと、
「帰りましょう」
と言って、虎碧はふたりの肩に触れれば。またも跳躍して。
気がつけば、三人はどこかの城内にいた。死屍累々として破壊の傷跡も深い。そこは劉善の城のようで。完全に廃墟と化して。
生きている人間は、いなかった。
五重の塔のところからここまでの記憶はなかった。これも覚醒した虎碧の力のなせる業か。
「いんだよ細けえこたあ」
源龍は戸惑い気味の龍玉の肩を抱いて引き寄せる。
龍玉は身をゆだねて周囲を見渡す。
「ひどいもんだねこりゃあ」
あらためて屍魔どもの荒らしっぷりを思い知って、思わずため息をつく。
虎碧の胸にも切ないものが広がる。
(人の歴史はこの繰り返し……)
たとえ屍魔がなくとも、人間の手によって同じことが起こされる。それは人間の深い業か。
「いんだよ細けえこたあッ!」
源龍だった。突然大声を出すものだからさすがの虎碧もびっくりしてしまった。
「なっちまったもんはどうしようもねえが、なんだかんだでこの世から人間が消えることはねえだろう。……行こうぜ」
源龍は龍玉の肩を抱いて歩き出し。虎碧もその横について一緒に歩く。
「そうだね、こうして歩けば、誰か生きている人間に会えるかもね」
「そういうこった」
龍玉のつぶやきに源龍が応えれば、虎碧も、
「そうですね。きっと、誰かいますよね。だから、帰ってきたんですもの」
と言って。
三人、人を求めて歩を進めた。
完




