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魔王 六

 デーモンは倒れる虎碧を見据え、禍々しい笑みをたたえた。

「サタンを傷つけたことは称賛に値する」

 そう言いながら勝利を確信した。

「くそったれが……」

 源龍と龍玉は歯噛みし吐き捨てる。

 四人は動くもままならず、立とうにも立てないでいたが、ただひとり香澄だけはよろけながら立ち上がり。七星剣の方へとよろよろと歩く。

「ほう」

 屍魔とはいえまだ動ける香澄を眺めて、デーモンは高みの見物を決め込んだ。反魂玉はなく、屍魔はもうすぐ屍へとかえる。そんな香澄がどうあがくのか、見届けてやろうというのだ。

 よろよろ歩きながらようやく七星剣のもとまで来た香澄は、力なく七星剣を拾うとサタンを冷たい瞳で見据えた。

「香澄……」

 どうにか膝立ちしながら虎碧は立ち上がろうとする。それを見て、香澄は微笑んだ。

 龍玉と源龍もどうにか立ち上がるが、それぞれ得物を杖替わりにせねばならぬ有様である。

 七星剣を拾い、それから虎碧の剣のもとまで歩いてそれを拾い。右手に七星剣、左手に虎碧の剣、ふたつの剣をもってサタンと対峙する。

 デーモンは余裕綽々である。さあどうすると、悪あがきを面白そうに眺めている。

 サタンの威圧を受けながら、香澄は駆け出した。だがデーモンは笑いながらそれを眺めている。

「香澄!」

 虎碧は叫んだ。あんな真正面から向かって、どうするつもりだ。みすみすやられにゆくようなものではないか。

 と思えば、香澄はあらぬことをした。なんと虎碧の剣をもって己の右腕を斬ったではないか。

(な、なにを!)

 虎碧らは唖然として、斬り飛ばされた腕を見た。デーモンは、

「狂ったか」

 と余裕で笑っていた。が、その禍々しい笑みがにわかに凍りついた。

 斬り飛ばされた腕は、七星剣を突き出して、サタンめがけて一直線に飛んでゆくではないか。 

「こしゃくな!」

 左手をひらいて蠅をたたくように叩き落とそうとするが、七星剣は掌を突き刺しそのまま貫いて。そのまま胸のデーモンの顔面めがけて飛び。

 ふところに入られて、慌てて後ろに跳躍しようとするも、それより早く七星剣はデーモンの額に突き刺さった。

「ぎゃああああ――」

 突然のことにデーモンは悲鳴をあげ、つられるようにサタンも悲鳴をあげた。

 デーモンの額を突き刺した右腕は、今度は剣を抜いて、虎碧のもとへと飛んでゆき。はっ、と察した虎碧は残りの力を振り絞って跳躍して右腕から七星剣を受け取り。そのままサタンまで駆け。

 弾かれるように源龍も駆け出した。

 サタンはよろけている。七星剣はデーモンの脳まで突き刺し、そのことで動きが鈍っているようで。もろ手の剛腕もぶらりと垂れ下げ、ぼおっと突っ立ているまま。

「くらえ!」

 源龍は勢いをつけて大剣の先でデーモンの鼻に突きを入れた。しかし打撃を受けていてうまく力が入らない。そこへ、青龍刀を投げ捨てすかさず駆けつけた龍玉が源龍の腕をつかんで、

「うわああ!――」

 と叫びながら一緒に力を込めた。

 虎碧は高く跳躍し、サタンの頭上まで飛べば。

「はあッ!」

 と気合を込めた大喝一声。

 七星剣を脳天から突き刺して、逆立ちをする格好となり。すぐさま柄をはなしざまに腕で飛んで遠くへ離れて着地した。

 源龍と龍玉はともに力をこめて大剣をめりこませて、ついには背中まで貫き。大剣もそのままに後ろへ飛びすさった。

 香澄は屍魔ゆえに右腕の傷口から血も出ずに。サタンの断末魔の姿を見据える。

 左腕から力が抜けて、虎碧の剣がぽとりと落ちた。

 脳天と胸を貫かれて、そこからどす黒い血があふれ出て足元の岩盤を溶かしてゆく。

 溶かされてゆく岩盤は大きな穴をあけて足元を崩してゆき。とめどもなく流れ落ちるどす黒い血はついには大穴を開けて。なすすべもなく、サタンは崩れ落ちるように倒れながら、大穴に落ちてゆき。さらにどす黒い血は岩盤を溶かして、サタンは飲み込まれてゆくように地中に埋もれていった。

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