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魔王 五

「畜生がッ!」

 業火から逃れながら源龍や龍玉は歯噛みする。これでは手も足も出せそうになく、業火を避けながらいかにサタンに迫るかを必死に考えていた。

 同じように避ける虎碧であったが、ぴんと閃くものあり。逃げ足をとめて、剣を構えた。

 業火は迫る。が、碧い瞳はそれをじっと見据えていた。

「はあッ!」

 ぶうんと七星剣を振るえば、風が起こり、迫る業火をしりぞけた。なおも風はやまず、そのまま業火をしりぞけながらサタンに、胸のデーモンにまで届いた。

「うむ!」

 デーモンは思わず唸った。風は業火を切り抜け迫っただけではなかった、かまいたちとでも言おうか、無数の刃が迫るがごとく風はサタンの肌を傷つけ、胸のデーモンも鼻や頬に切り傷を負った。

 そのおかげか、火龍のようにうねる業火は消え去り。ここぞとばかりに源龍は大剣をふりかざしてサタンに迫った。

 これにひるむサタンではなかったが、一瞬でも隙をつくってしまい、そこをつけこまれて。源龍はふところに飛び込み、胸のデーモンと目が合った。

「くらいやがれ!」

 大剣の剣先がデーモンの顔面めがけて突き出され。咄嗟に後ろに跳躍しようとするが、にわかに背中に衝撃を受け、跳躍しきれず途中で足をついてしまった。

 源龍の攻めに合わせて龍玉と香澄が素早く後ろにまわって背中に飛び蹴りを見舞ったのだ。

「がああ!――」

 逃げ切れなかったサタンは咆哮し、大剣がデーモンの顔面を貫くかと思われたが。その直前にもろ手の剛腕が大剣をはさんですんでのところで止めた。

(いまだ!)

 大剣をはさんだ一瞬動きは止まり、その一瞬の隙を突いて虎碧は瞬時に駆け出し七星剣を突き出す。

 源龍の右のわきを駆け抜け、七星剣はサタンの左腕に突き刺さった。突き刺さった個所からどす黒い血が流れ出て地までしたたり落ちれば。地の岩盤は「じゅう」と耳障りな音を立てて溶けたではないか。

 サタンのどす黒い血は岩盤すら溶かす猛毒のようだ。これを生身の身体で受ければ、一瞬にして肉汁と化して溶けてしまうだろう。

 しかし七星剣は溶けず、サタンの腕に刺さっている。

(なんという……)

 なにもかもが禍々しいサタンに嫌悪感を覚えつつ虎碧は七星剣を抜いて後ろへ飛びすさった。

 腕を傷つけられて大剣をはさむ力が抜け。咄嗟に源龍は大剣を振り上げて、思いっきり振り下ろせば。図太い刃は右手首に食い込み、骨をも砕く手ごたえを感じながら力をこめればついに手首から先、拳が切り落とされ。

 岩盤をも溶かすどす黒い血があふれ、それをさけるように後ろへ飛びすさった。

 斬り落とされた手は五本の指をひらいてぴくぴくと痙攣し、斬り口からあふれ出るどす黒い血は岩盤をじゅうじゅう音を立てて溶かし、煙が立っていた。

(やった、これで弱るか)

 そんな期待をもったが、サタンは少しは驚いている様子だが、なんの苦痛もなさそうに背中の蝙蝠のような翼をはためかせ。宙を舞った。

 洞窟内の岩盤の天井いっぱいに宙を舞えば、どす黒い血が雨のように降り注いでくる。が、虎碧は落ち着いたもので、

「はッ!」

 と掛け声をかけて七星剣を振るえば、さきほどのように風が起こり、降り注ぐどす黒い血を上へと吹き飛ばす。

 吹き飛ばされたどす黒い血は宿主であるサタンに飛び散るが、溶けることはなく、効き目はなかった。

 そうかと思えば、大口開いて業火を傷口に吐けば。傷口は一瞬にして焼け焦げてふさがり、出血は止まった。いかにサタンといえど、出血は命にかかわるようで。そこは人間と同じだった。

「くそ、飛んで逃げやがったか」

 恨めしく宙を舞うサタンを睨んだ。かと思えば、虎碧めがけて急降下してきた。

 流星を思わせるほどの早さであったが、虎碧にとってはなんなく避けられた。と思ったが、虎碧が避けて飛びのくのと同じくして進路をかえて龍玉めがけて飛んで行ったではないか。

「あッ」

 意表をつかれた龍玉は左手で捕まってしまった。腕力強くこのまま握り潰されるかと思ったが、突然ぶうんと放り投げられてしまった。その先には、虎碧。

「龍お姉さん!」

 自分に向かってくる龍玉を避けず、七星剣を捨てもろ手を広げて龍玉を受け止めたが。その勢いすさまじく、ふたりしてそのまま吹っ飛んで地の岩盤に全身を強く打ってしまい、立ち上がることままならなかった。

「龍玉、虎碧!」

 ふたりの有様を見て思わず叫ぶ源龍だが、今度は自分の方に向かって飛んでくる。

「おもしれえ、受けてやろうじゃねえか!」

 突きの構えで大剣を突き出し、自分めがけて飛んでくるサタン向かって駆け出す。かと思えば、サタンは突然ぐるりと回って足を見せた、かと思えば。長い尾がぶうんとうなりを上げて。

 意表を突かれて横から長い尾をぶつけられて、それは太い鞭のように源龍を打ち、たまらず吹っ飛んでしまった。

 その間隙をぬって香澄は落ちた七星剣を拾いに走っていた。

 七星剣まであと少し、右手を差し出したとき、突然全身に衝撃が走って吹っ飛ばされる。尾で打たれて吹っ飛んだ源龍がぶつけられてしまったのだ。おかげで香澄も吹っ飛ばされて、七星剣を拾いそこねそろって地に全身を打ちつけてしまった。

 サタンは飛ぶ方向を見極めて、相手を吹っ飛ばして、それは見事うまくいった。

 翼を休め地に降り立ったサタンは倒れる四人にかまわず、

「があああ!――」

 とくうを揺らすほどの雄叫びを上げた。

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