天女 三
それは人間だった。しかし、
「腐った死体は見飽きたんだよ!」
と、源龍は吼えながら大剣を振るい次々とそれを粉砕していった。
それは、人間ではあるが、ところどころが腐敗し。ひどいものになると腐った眼球がたれ落ち、あるいは眼球そのものがなく。鼻も耳も欠け、あるいはもげているものまであり。
その損傷の具合は、とても生きているようには思えなかったが。それらは動いて源龍に襲い掛かってくるのだった。
それは静かにたたずんでいる香澄にも襲い掛かってきたが。源龍は意にも介さず無視している。
それらは大口を開けて香澄の眼前にまで迫り、腕を伸ばして顔面をつかもうとしていた。
その腕が香澄の顔を囲んだその刹那。幾多もの閃光ひらめき、同時に腕は吹き飛び宙を舞い地に落ちる。と同時に腕のみならず五体までもが瞬時にしてバラバラになって、ばらけて破片を地に落とす。
それを、香澄は剣を手にして見つめていた。
香澄はその手に握る剣で、己に襲い掛かるそれらを一瞬にして斬ったのである。
(七星剣はさすがの斬れ味だぜ)
傍目で見ながら源龍は香澄の剣の斬れ味に感心していた。
だが、斬ったからといって、それで終わりではなかった。なんと、あろうことか、その斬られたものの破片は、地面でもぞもぞと動いていた。
源龍もあらん限りの力で粉砕してゆくも、その破片までもが地面で芋虫のようにもぞもぞと動いているのだった。
「相変わらず、屍魔ってのは不気味だぜ」
と、源龍は吐き捨てる。
一通り斬って、周囲を見渡せば。それら屍魔と呼ぶものの数はさらに増えて、源龍と香澄を取り囲んでいた。
おおお、という臓腑に沁みるような不快な唸り声が竹林に響き渡る。
「つい十年前、いや、小競り合いは今も続いているからな。死体なんぞいくらでもあるってか……」
源龍は大剣を構えながらひとりごちた。
「?」
ふと、背中に何かが当たった。振り向いて見れば、それは香澄だった。源龍の背中に己の背中を合わせて、屍魔と対峙している。
(こいつも、不気味な奴だ。こいつは、何者なんだ?)
第六天女が源龍の前に姿をあらわすたびに、この少女も一緒にいる。第六天女は源龍をしもべに欲しているが。彼女はそのしもべなのだろうか。だがその正体はいまだつかめずにいる。
ともあれ、香澄がなんであれ、まず屍魔どもを片付けねばならない。
協力してくれるというなら、協力してもらおう。というより、前からこんなことはある。
第六天女がどのようにしているか知らぬが、彼女があわわれると必ず屍魔もあらわれて、源龍に襲い掛かるのだ。
しもべにならねば、こうだぞ。という脅しか。
「ざけんじゃねえよ」
ちっと舌打ちすれば、だっと駆け出し。同時に香澄も駆け出し。それぞれ屍魔に向かっていった。