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屍臭の大地 一

「劉善と孫健はどうしたのじゃ!」

 辰の都・東陽にて、天宮に陽帝の怒号が響き渡る。

 反旗を翻し国家転覆をはかった劉善と孫健を討ちにいった征伐軍からの報せがまったく来ず。やむなく別の使いを出して戦況報告を催促したものの、これも帰ってこない。

 怒りの収まらぬ陽帝は見開いた目を真っ赤にして王座より臣下たちにこれでもかと罵声をあびせている。

 臣下たちは目が合わぬようにうつむいて、こらえるばかり。誰ひとりとして陽帝に対し申し開きをしようとはしなかった。

「無能どもめッ!」

 とどまることなる吼えつづけていた陽帝であったが、なんの手ごたえもないことでいよいよ怒りはおさまらない。

「なんとか言ったらどうだ。おい、お前!」

 適当にひとり指をさして発言をうながすが、

「ど、どうかお許しください」

 と突然ひれ伏して頭を床に叩きつけながら、

「お許しください」

 を繰り返すばかりであった。

 その無様さは憐れみを呼ぶどころか、陽帝の怒りの炎に油を注いだだけであった。咄嗟に腰の剣を抜いたと思いきや、その臣下のもとまで足早に来て剣を振り上げた。が、臣下は悩乱してか、自ら素早く仰向けになり、

「どうか心臓を一突きしてください!」

 と懇願した。

(もう命はない。ならばせめて楽に……)

 仰向けになりながら震える臣下の左胸に剣が突き刺さり、背中まで貫き。床をしたたかに刺した。

 おお、とどよめきがおこり。臣下は血を吐いた口をぱくぱくさせると、息絶えた。

「この汚いものをかたづけろ!」

 血濡れた剣を抜くと近習が駆けより布で血を拭き。同時に近衛兵が駆けつけて死んだ臣下の屍をかついで、天宮から出してゆく。

 血が拭き取られた剣を鞘に納めると。臣下を担いでゆく近衛兵と入れ替わりに侍女が来て。陽帝はそれに目をやる。

「陛下、皇后さまがお呼びでございます」

「うむ。ゆこう」

 並んで恐れおののく臣下たちに目もくれずに陽帝は後宮に向かい。後宮の中でもひときわ豪勢な部屋に入った。そこは皇后の部屋であった。

 赤を基調にした、金糸や銀糸のもちいいられた豪奢な衣を身にまとった皇后はうやうやしく立って礼をして陽帝を出迎えた。

 それから、後ろに控えている侍女の持つ盆から杯をひとつとると。中の酒を一口飲んで、陽帝に近づくと口移しで酒を飲ませた。

「お忙しい中、わらわに会いにきていただいて……」

「よい。ほかならぬそなたが会いたいのならば」

「まあ、うれしい」

 皇后は頬を赤くし。杯を盆にもどすと、人目もはばからずに陽帝に抱きつき。陽帝もまんざらでもなさそうに、背中に手を回した。 

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