覚醒 二
「え、うわ、とっと――」
思わぬことに龍玉はかろうじて青龍刀を持ちながら、なぜか勢いに押されて抗いきれずに源龍の胸元まで来てしまった。
おのれの胸元まで来た龍玉を怪訝な目で見下ろしながら、よろけたところを背中に腕を回して思わず支えてしまった。
虎碧はすでに香澄とならんで屍魔どもを薙ぎ倒していた。
いかなる殺法をもってもその動きを止められぬ屍魔どもである。下手に叩き斬るよりも剣を棍棒のように使い薙ぎ倒し動きを鈍らせるしかない。
「走れるか?」
「無理……」
「おいおい」
触手にいいように攻められたおかげで、不本意ながら、すっかり骨抜きにされてしまったようだ。
「ああ、もう」
眉をしかめながらも、少し身をかたむけたかと思うと、龍玉の腹に肩をあててそのまま担ぎ上げると、大剣を片手で振るいながら屍魔どもを薙ぎ倒しながら香澄と虎碧の後を追って駆けた。
第六天女はそれを見ているだけだった。不気味ではあったが、後ろを振り返ることなくひたすらに屍魔を薙ぎ倒しながら駆け。ついには城門をくぐり外に出た。が、そこにも屍魔どもはわんさかと群れていた。
「果てがねえ」
源龍は忌々しく舌打ちする。
「おまけに重い荷物担がされてよ」
「うるさい!」
担がれる龍玉は源龍の尻を軽くたたく。
香澄と虎碧はならんで道を切り開いている。だが源龍の言う通り果てがない。このままでは力尽き屍魔どもに詰め寄られて食われてしまう。
「あなた……」
香澄は虎碧の瑠璃の瞳を見つめた。それからも言葉をつづけようとしたが、それより先に虎碧は頷いた。同時に剣を鞘におさめて、両手の指をからめながら指でなにやら印を結ぶ。
するとどうだろうか、壊滅した辰軍の落し物である幾多もの剣や矛らが宙に浮いたかと思えば一か所に集まり。突如竜巻のように回りだし。
この刃の竜巻に巻き込まれた屍魔どもは一瞬にして粉々に切り刻まれていった。
「な、なに……」
これには駆けながらも源龍は唖然とした。担がれる龍玉もどうにか首をひねってその様子を見て、唖然とする。
「これは、虎碧のやつが――」
なにか念力をつかったのか、剣や矛といった武具が竜巻をなすなど。常人のなせる業ではなかった。
「驚いている暇ではありません。道は開かれました!」
虎碧が叫んだ。たしかに、屍魔どもが竜巻に吹き飛ばされて空き地ができて、それはさらに進んで。虎碧と香澄はならんで竜巻の後ろを駆けていた。
源龍も急いで後につづくが。
いかなる力をなしたのか。刃の竜巻は屍魔どもを粉々に砕きながら道を切り開き。
虎碧と並んで香澄、その後ろに龍玉を担いだ源龍が続くが。香澄はぴたりと足を止めてしまった。
「香澄」
駆ける虎碧らは振り向き香澄を見れば、彼女は微笑みながら三人を見送っていた。




