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覚醒 一

 香澄に突進する源龍の目を見て、虎碧は静かにうなずき。青龍刀を拾い上げ、両手を地につけてぜえぜえ肩で息をする龍玉に手を差し伸べる。

「虎碧、あんた……」

 瑠璃色に輝く澄んだ瞳。その瞳はほんとうに瑠璃のようだった。

「立てる?」

「ん、まあ、なんとか」

 よろけながらもどうにか立ち上がり、青龍刀を受け取る。しかしまだ完全に回復しきっておらず、よろりとよろけて青龍刀を杖にしてどうにか立っている有様だった。

 そうしている間に、源龍が香澄めがけて大剣をぶうんとうならせれば。上半身を後ろに、真横になるまで背中を折り曲げて大剣をかわした。

 大剣の切る風が前髪を少しゆらす。

 さらに背中は折り曲り。頭のてっぺんがついには地にすれすれになるほど逆えびに反られた。

 大剣はすでに視界から外れたところまで振られて。その一瞬の隙を突いて、一気に体勢を戻しざまに鋭い刺突を源龍の顔面めがけてはなった。

「ちぃ!」

 とっさのところで刺突をかわすが、わずかばかり遅れて剣が頬をかすめ。血が細い糸のようにのびた。

 と同時に香澄は後ろへと飛び退り。腕を伸ばし源龍に向けて剣を突き出す。

「なめたまねしてくれるじゃねえか」

 頬からたれる血を舌でなめとり、大剣を構えてふたたび突進しようとするが。周囲がにわかにざわつきはじめ。

「うあううう――」

 という不気味な唸り声が耳に入り込む。第六天女が反魂玉を操って、屍魔どもをふたたび動かしたのだ。

 屍魔どもは生ける者の血肉骨肉をもとめて、源龍らを囲む輪を縮めるように迫ってくる。

「源龍さん、逃げましょう。これでは衆寡敵せずでやられてしまいます」

 青龍刀を杖にして立つ龍玉を支えながら虎碧は周囲を見回す。屍魔どもは城内いたるところでうごめいている。中には何を間違えたのか共食いまでする者もあった。その餓えた様は、まさに地獄の餓鬼そのものであった。

「ううむ――」

 源龍は眉をしかめた。しゃくだが、虎碧の言うとおりだ。

 ちらりと第六天女を睨めば、あいかわらず、妖艶でいて不敵な笑みを浮かべている。

 同じように香澄も第六天女を見つめたと思えば、風に乗るように軽やかに地を蹴り屍魔どもの群れに向かって駆け出した。かと思えば、立ちはだかる屍魔どもを七星剣で薙ぎ倒す。

 薙ぎ倒しながら、ちらりと源龍に龍玉、虎碧を見つめた。

「香澄も手助けしてくれるようです」

「なに?」

「あ、それと……」

「なんだよ」

「龍お姉さんを頼みます!」

 言うやいなや虎碧は龍玉の背中を掌で突いた。

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