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触手 四

 攻められつづけて、力が抜けることはなはだしい龍玉であったが。虎碧の突然の変わりように驚きを隠せなかった。

 着地した虎碧は次に触手に斬りつければ、青龍刀をつかまえ剣を追った硬さを見せたのがうそのように、すぱっと斬れたではないか。

 龍玉をつかまえていた触手も切られて、一気に力が抜けて。龍玉はまっさかさまに落ちてゆくが。咄嗟に跳躍しなおした虎碧はこれを優しく受け止め、着地と同時に優しく降ろした。

 力が抜けきって立ち上がることもままならぬ龍玉であったが、どうにかして顔を上げれば、微笑む虎碧と目が合った。が、同時にどきりと心臓が跳ねたようだった。

 虎碧の碧い目が、一段と光り輝いて。まるで瑠璃のようだった。

「……」

 声も出ないでいると、虎碧は微笑んだ。そこにほとばしる一閃の光。

 香澄の七星剣だ。

 だが虎碧も剣を一閃させ七星剣を受け、火花が散ったと同時に香澄はさっと後ろへ飛び退き。改めて剣を構えなおした。

 その間、首を失った化け物劉善の胴は、見境をなくして四方八方走り回って。たたずむ屍魔どもを踏みつぶし。触手も正気をなくして伸びたり縮んだりしていた。

 見境なく走り回っていた胴は向きを変え、虎碧めがけて駆け出した。

「とっととくたばれ化け物!」

 虎碧めがけて突っ走る化け物劉善の胴の前に立ちはだかった源龍は大剣をぶうんとうならせ、思いっきり背中から叩きつけた。

 触手は用をなさず飾りとなって、大剣のぶつけられた背中はばっくりとわれて血が噴き出し。背骨は砕かれ。さらに大剣はめり込んで臓物にまで達し、それでも止まらず腹の皮を突き破って地に叩きつけられた。

 これにはひとたまりもなく、大剣が上げられると、腰まで割られた胴はおのれの噴き出した血の池に沈むようにどさりと倒れこんで。ぴくりぴくりと痙攣し、それ以上動かなかった。

 とどめをさした源龍が虎碧に視線を向ければ、碧い目は瑠璃のように光り、香澄と対峙していた。

「あいつ……」

 すっかりおじけついていたのがどうしたことか。突然人が変わったように化け物劉善の首を刎ね、香澄と向き合うとは。なにより、瑠璃の珠のように強い光を発する碧い瞳は。

 などと、考える源龍ではなかった。

「虎碧、そいつは俺がたおす!」

 大剣の柄を握り直し、雄叫びを上げて香澄向かって突っ走る。

「あいかわらず、馬鹿じゃの」

 第六天女は源龍の顔を見つめながら冷たい微笑みを浮かべた。それから虎碧に視線をうつす。

「しかし、あの碧い目の娘、虎碧とやらは、なるほど、さすがじゃ」

 と、心から感心するようにつぶやいた。

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