触手 二
香澄の澄んだ瞳と源龍の血走った目が合い、火花が散ったようだった。
それから離れたところで、龍玉は青龍刀を触手につかまえられてにっちもさっちもいかなかった。
虎碧も龍玉を援護したかったが、おじけついてしまって身動きもままならない有様。
源龍は香澄と対峙してそれどころではなさそうだった。
他の触手が龍玉めがけて迫って、
「ああ、もう」
歯噛みしながら青龍刀を手放して避けながら跳躍した。青龍刀は触手につかまったままだった。それが、向きを変えて龍玉に迫ってくる。
無手になってしまっては青龍刀を奪い取った触手の化け物と戦えず、龍玉はいよいよ歯噛みする思いで逃げ回るしかなかった。
触手は迫り、青龍刀も迫り、やられないように逃げ回り。逃げ回りながら、しきりに目玉を動かして周囲を見回していた。
やがてかっと目を見開いて、ごろりと転びざまに、地に落ちていた剣を拾い上げた。
「おあう――」
化け物の劉善は不気味な咆哮をはなち、触手でつかんだ青龍刀で龍玉に斬りつけた。が龍玉とてただではやられず、拾った剣をしっかとつかんで青龍刀の軌道を読んですんでのところでかわして、
「やあッ!」
気合の一喝とともに青龍刀をつかむ触手に斬りつけ、剣はぶうんと風を切りうなりをあげて触手を斬った――
かと思われたが、触手に触れるや、鋼鉄にでも触れたかのようにぽきりと折れてしまったではないか。
「な、えッ!」
あんなにやわらかそうで簡単に斬れそうなのが、青龍刀をつかまえたうえに剣を折る硬さを見せて。驚きのあまり一瞬動きが止まってしまった。
その一瞬の隙を突いて、他の触手が伸び、龍玉の腹に巻きつき。高々と持ち上げてしまった。
「うわあ――」
かっこ悪く手足を伸ばし、思わず悲鳴が漏れる。
虎碧は顔は青白いままで、魂が抜けたかのように唖然とするしかなかった。
源龍は香澄と対峙したまま動かない。いや、動けないというか。互いに合い構えて、隙あらば一閃のもと剣がほとばしり骨肉を斬り血が飛ぶさまが脳裏にありありと描かれて。動くに動けなかった。
第六天女は艶やかに笑い。この状況を楽しんでいた。
そうするうちに触手は龍玉を高々と持ち上げ、腹のみならず手足にも巻きつき。さらに、数本が襟元から入り込み、肌をまさぐった。
「あ、ああ……」
声を出すまいとこらえても、絞り出されるように声が漏れ。龍玉はもだえ顔は苦悶の表情を浮かべた。
「いっぺんに来る快楽と恐怖はどんな味をしておる? うふふ……」




