天女 一
町を出てからどれくらい歩いただろう。
剣士は竹林の中の細い道をつかつかと歩いていた。
彼は、どこにゆこうというのだろうか。いや、ゆくところなどない、流浪の旅なのであろうか。
薄暗い竹の葉と葉の間をすり抜ける陽光が槍のように斜めに地面に突き刺さっている。時折それに身を当てながら剣士は竹林の中を歩いていた。
と、その足が止まった。
「おい」
竹林の中には剣士一人しかいないのに、誰かがいるかのように呼びかけの声を発した。すると、なんらかの気配がしたのか、後ろに振り向いた。
そこには、女がいた。
まだあどけなさを残すものの、それはたいそう美しい娘であった。
身にまとう衣の上に鉄甲を身に着け。手には剣。
どこか物騒な恰好をしているが、それでも、その美しさゆえに、まるで天女が天より地に降り立ったかのような錯覚さえ覚えさせる。
だが、どこか違う。艶の良い肌をしているにも関わらず、娘からは生気というものを感じ取ることができず。まるで鬼のような儚さを感じさせるのである。
しかし、剣士は驚きもしなければ娘の美しさに見惚れることもなかった。ことに、その手に握られる剣を凝視する。
その剣は普通の剣ではなかった。その輝きから業物であることは見当がつくが、さらに目を引くのは、剣身に紫色の珠が七つ、北斗七星の配列に埋め込まれていることだ。
剣士はその剣を凝視すると、視線を娘の顔にうつす。
「しつこい奴だな、香澄、お前は」
呆れた顔をしながら、剣士は娘を香澄と呼んだ。
しかし娘、香澄は剣士を微笑んで見つめたまま、なにも応えない。手にしている北斗七星の珠の剣で斬りかかる様子もない。
「第六天女!」
突然、剣士は叫んだ。と、突然、女の笑い声が竹林の中響き渡った。常人ならば驚き腰を抜かすであろうが、剣士はじっと笑い声に聞き入っている。
笑い声が身にこびりつくような不快感を覚える。この笑い声を発しているのは只者ではない――
刹那、かっと目が見開かれたと思ったその瞬間、風のうなる音とともに、ばきばきという音もすれば。数本の竹が他の竹に寄りかかりながらずるずるとずり落ちて、またほかの竹に寄りかかってから、ばたりと倒れた。
いつの間にか、女の笑い声が消えている。
剣士は大剣を構えていた。
背中から取り上げながら大剣を振るい、そこで竹がぶった斬られた、というわけだったが。目的は竹をぶった斬ることではないのは言うまでもない。
これに香澄は驚かず、涼しい顔をして微笑んでいる。
大剣をかまえる剣士のやや向こう側に、女がたたずんでいる。
その女は、女として熟れた妖艶さを醸し出していた。濃い紫のい衣に身を包み、妖艶な笑みで剣士を見つめていた。
「やるのう、源龍」
「お前こそな、第六天女よ」
ふたりは香澄をよそに、視線を合わせたまま動かなかった。