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屍魔が屍魔呼ぶ餓鬼地獄 五

 後方の荷駄隊の人員らは、戦いが終わってからまた騒然としたのを見て、

「こりずに反逆している阿呆がまだ残っていたようだぜ」

 とほかの人員とつぶやきあっていた。

 そこから少し離れたところにいる虎碧も、城の方を見ている。

 虎碧はひとりぼっちだった。

「あの娘っこ、目が碧いのが気味わりいな」

 とささやきあって、誰も近寄ろうとはしなかった。

 それにすこしばかりさびしい思いをしつつも、虎碧は懸命に人員のひとりとして働いてきた。

 それはともかく、城からどうにも邪悪な気配を感じる。これは、反逆ではなく、なにか、人ならぬ者によるものではないか。

 となれば……。

 いてもたってもいられず、虎碧はだっと駆け出した。

「おい小娘、どこへ行く! まだ仕事があるんだぞ!」

 と後ろから怒鳴られたが、それでもかまわず駆け。駆けに駆けて。もうすぐ城だというところで、城門から辰兵や人民らが蜘蛛の子を散らすように逃げ出してくるではないか。

「あッ!」

 思わず叫んでしまう。

 逃げ出す辰兵らを追うのは、人とも思えぬ人ども。逃げ遅れた辰兵や人民は噛みつかれて、噛み砕かれてゆく。

「やっぱり」

 あの第六天女があらわれたのだ!

 龍玉は、源龍は無事だろうか。この騒ぎの中、城外に逃れるような性分ではない。虎碧は胸騒ぎを覚えながら、逃げ惑う辰兵や人民らの間を縫いながら駆けて、あるいは襲い来る屍魔をかわしながら、城内に飛び込んだ。

 飛び込みながら、これからのことが脳裏をよぎる。

「これは大変なことになるわ」

 城外に控える辰軍の将兵や人員らも屍魔に襲われて、またそれが屍魔になって、無限に増えてゆく。そうなれば、自分たちだけではどうしようもなくなってしまう。

「龍お姉さん、源龍さん!」

 視線の先では、源龍と龍玉が屍魔を相手に得物を振るっていた。しかし、四肢をばらばらにされてもくたばらず、絶えず餓えている餓鬼のごとくに襲い掛かるのだ。だから、とどめをさせずに払いのけるのが精一杯であった。

 その周囲を見れば、幾多もの屍魔が人を貪り食っていて。思わず吐き気を覚えて、のどからこみあげてくるものがあって。

 一瞬立ち止って、不覚にももどしてしまった。

 その間に屍魔どもは迫ってきて、かろうじて姿勢を戻して、掌打や蹴りで払いのけながら源龍と龍玉のもとにゆこうとする。

「虎碧、来ちゃだめだ!」

 虎碧に気付いて龍玉が叫んだ。だが源龍は知らん顔で屍魔どもを大変で薙ぎ倒すのみ。他の者たちのように、逃げようとする気配がない。

「いる、あいつがいる」 

 ぼそぼそとつぶやきながら、屍魔を一匹粉々に打ち砕いて。地に落ちた首を踏みつぶす。

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