屍魔が屍魔呼ぶ餓鬼地獄 四
「な、なんだこの女どもは」
辰兵らはふらりと奥からあらわれた女たち、ことに血塗られた剣をもつ少女にいささか驚き。思わずたじろいでしまった。
それにかまわずに、第六天女の切れ長の目が反魂玉に向けられたかと思えば、反魂玉は妖しい光をはなった。
なんだこれは、と驚いていると。
「ぐわああ――」
という獣のような叫びがしたかと思えばどすどすと太い足音がして、
「ひぎゃあ――」
という悲鳴が轟いた。
「劉善が生き返った!」
辰兵らは信じられなかった。確かに死んでいて、しかもさらに全身を突き刺された劉善が生き返っていたのだから。しかもそれは大口を開けて辰兵らに襲い掛かって噛みつき骨肉を噛み砕く。
その無残な様を、第六天女は冷たい目をしながら微笑んでいた。
「に、逃げろ!」
辰兵らは算を乱して逃げ出す。しかし、館を出てみれば、そこには人が人を食うという凄惨な光景が広がっていた。
「あぎゃげえ――」
悲鳴があがる。蜂の巣のような無残の姿のまま蘇った劉善が辰兵のひとりに食らいつき、ばきぼきばき、と骨肉を噛み砕く。
そうかと思えば、前からも血に飢えた狼のような連中が迫って。逃げ惑うも逃げ切れずに囲まれて、そのまま一斉に食らいつかれて、絶望に満ちた悲鳴を上げながら噛み砕かれて、食われていった。
もう城内は人の世界ではなかった。
「こ、これは、餓鬼じゃ、餓鬼の地獄じゃ……」
誰かがぽそっと震えながらつぶやいた。まさに、人が人を食うその有様は餓鬼の地獄と言ってもよく。自分たちはいつの間にか人の世界から餓鬼の地獄へと落とされてしまったような錯覚すらおぼえた。
さらに――
「ああ根橙代、いいやつだったのに」
辰兵のひとりが、屍魔に食われて死んだ戦友にすがって泣いていた。すると、死んだはずの兵の口から「うう」とうめき声がもれ。それを聞いて、
「お前、まだ生きていたか!」
と喜んだのもつかの間、突然首に噛みつかれてしまった
「や、やめろ、おれだよ、わからないのか!」
恐慌をきたして払いのけようとするが、強い力でしがみつかれながら首を噛みつかれて。歯はくいこんでゆき、ついには骨ごと噛み破られて。力が抜けて抗うことができなくなって、そのままいいように噛みつかれて、食われてしまった。
このように、屍魔どものために死んだ者が蘇って、逃げ惑う辰兵や人民に食らいつき。さらにまた食らいつかれたものが蘇って生きている者に食らいつき――
という連鎖が起こって、徐々に生きている者よりも屍魔の数がまさるようになってしまった。




