戦場 八
龍玉は「ぎりり」と歯軋りして源龍を睨みつけ、青龍刀を拾い上げて今にも飛び掛からんがばかりだった。
だがそれにひるむ源龍ではなく、冷めた目で龍玉を見据えていた。
「お前は傭兵には向いてないな」
それだけ言うとつかつかと歩きだし、身構える龍玉の横を通り過ぎる。首を回してその背中を睨んで、歯を食いしばっている。
龍玉とていくらかの修羅場をくぐっている。屍など何度も見て見慣れたものだった。しかし、戦争によって幾多もの人民がいっぺんに殺される様を見るのは初めてだった。
源龍の背中を見据えてかたまった龍玉だったが、
「おおい、褒美だ、褒美が出るぞ」
と言う声が聞こえて、
「ふん」
と鼻息を荒く吐いて声の方へと歩き出す。その先に源龍がいる。褒美をもらいにいくのだろう。
龍玉の気配をさっした源龍は皮肉を込めて言う。
「褒美はもらうんだな」
「もらうさ」
「あれだけ戦争が許せそうになかったのにか」
「それとこれとは話は別さ」
「いい気なもんだな」
「なんとでも言いな、もらうものはもらうのさ」
しばらく歩けば人だかりができている。従軍の役人が筆と帳簿をもって、その隣にもうひとり役人がいて、傭兵たちに金の入った袋を渡している。袋はそれなりにふくらみ、重そうでもあった。反乱軍に勝ったので、それなりに振る舞っているのだろう。
袋を渡された傭兵たちはほくほく顔で中をのぞく。その顔を見て、龍玉は眉をしかめてしまった。
(なんて汚い面だろうねえ)
龍玉も人を殺めたことは何度もあるが、それは悪人だけであり、この戦いにおいても手にかけたのは将兵だけだ。いかに人を殺めようとも、最低限の線引きをしている。春を売ったことはあるが、無為な殺生だけはしていないという自負があった。
しかしこの傭兵たちは、金のためなら無垢の民も平気で殺す、という卑しさを感じてならなかった。
順番が来て源龍のすぐあとに袋を受け取った。ずっしりとして重みがあり、中をのぞけば今まで働いた中で一番の金が詰め込まれていて。思わず、
「やった!」
と喜んでしまった。総大将の劉善の生け捕りがならなかったから報奨金は減るだろうと思ったが、それでも予想以上にあった。そんな龍玉に源龍は苦笑いだ。
「お前、ほんとうにいい性格してんな……」
「金を稼いで嬉しくないなんてことがある?」
「わかったわかった」
苦笑いする源龍を見て、龍玉はにやりと微笑む。
「なんなら、今日もらった金くれりゃ、あたしを抱いていいよ」
思わず源龍はずっこけ、眉をひそめてしまった。ほんとうにいい性格をしている。調子に乗って源龍相手に春を売ろうというのだから。
「やっぱりお前は傭兵に向いているかもな」




