戦場 六
「り、りょ、凌遅……!」
凌遅の刑と聞いて、股間と尻が濡れて不快感を覚えた。また漏らしたのだ。
劉善の脳裡に、無慈悲に身体を切り刻まれる悲惨な光景が浮かぶ。凌遅の刑とは、人の身体を生きたまま切り刻む処刑方法のことだ。
「いずれにせよ、生きたままなんらかの辱めを受けることは間違いありませぬ。陽帝はその性質残酷にして極めて陰惨と申します」
劉善の蒼白な顔からますます生気が抜け落ちて、目からは涙がぼろぼろとこぼれる。それを見る家臣たちの顔つきといえば、ひややかなものだった。
「さ、潔く」
と杯を差し出す。劉善は首を横に振る。
「い、いいい、いやじゃ」
「何と申される」
「わしはまだ死にとうない……」
か細い声が絶望の旋律を奏でながら口から漏れ、家臣は首を横に振る。
「ここまで来てしまった以上、もう望みはありません。さあ、この毒酒をお飲みなされ。そうすれば楽に死ねまする」
「ひい」
どこから力が出たのか、劉善はおもむろに立ち上がって駆けて逃げ出そうとする。しかし、他の家臣らに素早く取り押さえられ。さらに頬をつかまれ、鼻をつままれる。
頬をつかまれて口が開く。そこに毒酒が満たされた杯が近づく。
もがが、と足掻くが、家臣の力強く振りほどけない。
身動きのできない劉善の開かれた口に杯が触れて、毒酒が流し込まれる。喉に力を込めて流れ込まないようにしようとも、無駄足掻きで、毒酒は容赦なく喉の中へと流れ込んでゆく。
杯の中の毒酒がなくなると同時に解放された劉善は手足をばたばたさせて、
「ひいいい――」
と、断末魔のうめき声をあげて、やがて倒れこんでしばらく痙攣したあと、ぴくりとも動かなくなった。
白目をむき、口からはこぼれた毒酒とよだれのまじったものを垂らして。さらに股間のあたりは漏らしたものがにじんでいる。
「燭王家の血を継ぐお方なればと、劉善様を将来の王と見込んで兵を起こしたものの……。無念なことじゃ」
「このような無様なお方であったとは。我らの見込み違いであった」
劉善のなきがらを見下ろしながら、家臣らは首を横に振って嘆息する。
「祖国復興の望みは絶たれた。悪逆・辰に、意地の一太刀をくれてやろうではないか」
「応!」
家臣たちは剣を抜いて一斉に館の外へと駆け出し。召使いらは弾かれたように館から逃げ出し、外で待ち構えていた兵に斬り殺された。
すでに館は城内に乱入した辰兵によって包囲されていた。その先頭を切っていたのが龍玉と源龍で、館を守る守備兵を仕留めていた。
館の守備を任されるだけあって、皆屈強でそれに一斉に襲われてはさすがの龍玉と源龍も多少はてこずり、その間に追い付かれてしまった。




