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戦場 五

 着地してから龍玉は遮二無二に駆けた。源龍も後を追う。

「あいつ、気張りすぎだ」

 初めての戦争で気が昂ぶっているのがよくわかる。それまでの用心棒稼業と違って、戦争で手柄を立てればたんまりと褒美にありつける。

 こと、虎碧の分まで稼ごうと張り切っているからなおさらだ。

「おい、劉善は生け捕りだという命令だぞ。殺すなよ!」

 と背後から大声で言われた。

(生け捕りか。案外優しいんだね)

 意外に思いながらも城内を駆け、劉善のいる館までまっしぐら。途中立ちはだかる城兵らを青龍刀で薙ぎ倒しあるいは吹っ飛ばし。駆け足ゆるむことを知らなかった。

 後ろの方でばり!という音に続いて一気に喚声が高くなった。城門がついに破られたようだ。同時に城兵の守備は崩壊して、寄せ手の辰軍が一気になだれ込んだ。

「もうだめだ!」

 辰軍の猛攻に耐えかねた城兵らは武器を捨て、地にひれ伏して、降参、降参、と声を上げて命乞いをする。

 城内は辰軍の将兵が怒涛のように突入し、城内の各所へと駆けて城を占拠する。

「我が君、もう、だめでございます!」

 負傷した将校が館にほうほうの体で逃げ込み、肩で息をして惨状を伝えると。そのままばたりと倒れこんで、ぴくりとも動かなくなって、死んだ。

「あ、ああ、もうだめじゃ……」

 劉善は顔面蒼白でへたり込んで、尻もちをつき、震えるばかりで声も出せなかった。家臣らも言葉もない。

 こんなにも早く落城の憂き目に遭おうとは。これでは孫健の軍勢が着くのを待つ以前の問題である。

(それにしても……)

 秘密裏に進めていた反乱の計画がなぜ漏れたのであろう。裏切り者でもいたのであろうか、それとも密偵でも紛れ込んでいただろうか。

 そのどちらであろうと、いまさら考えても仕方のないことであった。

「我が君、かくなる上は……」

 家臣のひとりが召使いになにか言うと、召使いは早足で館のどこかへとゆき、しばらくして帰ってくれば、手には盆をもち、酒を入れる酒器の瓶子へいしと杯が乗っている。

「これは」

「もはやこれまで、かくなる上は……。お覚悟を!」

 と言いながら家臣は瓶子から杯に酒を注ぐと、杯を手に取り差し出した。それを見た劉善はますます震えた。

「これを、飲まねばならぬか」

 と、声を絞り出す。その声もろれつが回らず、何を言っているのか聞き取りづらかった。

「もうそれ以外にありませぬ。反乱を起こした以上、ただではすみますまい。凌遅りょうちの刑もあるやもしれませぬ」

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