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戦場 三

 燭復興をめざし挙兵した劉善であったが、辰軍に手痛い打撃を受けてほうほうの体で城へ逃げ込み城門を硬く閉ざした。

 ぐるりと四方を走る城壁の内側には人民が暮らしており。互いに身を寄せ合って恐怖に震えていた。

 城主であった劉善は辰の軍門にくだり城ひとつをあてがわれていたが、それは偽りのもので、この城の中で家臣らとともに挙兵の機会をうかがっていたのだった。

 旧娯国の孫健もまた同じように祖国復興の機会をうかがい、ひそかに劉善と呼応して挙兵し、この城で合流する段取りであった。

 辰に滅ぼされた国は多く、滅ぼされた怨みを抱く者は多い。自分たちが挙兵すれば他の者たちも同じように挙兵し、辰を混乱に陥れることができる、はずであった。

 劉善は館に飛び込み水を浴びて身体を洗うと着替えなおして、大広間に家臣らとともに集った。

 その顔は顔面蒼白である。戦いに敗れて必死の思いで逃げた挙句のお漏らしである。もう男としての面子もあったものではない。

 それでも君主然と振る舞いたかったが、足が震えてどうしようもない。頼みの綱の青龍刀の武将が討たれたのは、痛い。

「だ、誰が彼を討ったのじゃ」

 開口一番に出た言葉がそれだった。討たれてもなお未練があった。しかし家臣らは、

「ううん……」

 とうなって応えようとしない。不審に思って「誰が討った」とさっきより強く問い直して、ようやく、

「女のようでございます」

 と、家臣は応えた。

「女!」

「左様、聞けば女に討たれ、青龍刀もうばわれたとのよし」

「お、女に討たれたじゃと、馬鹿な、なにかの見間違いではないのか」

「それがしも何度も見た者を問いただしたのですが、間違いなく女であると」

「そ、そんな……」

 彼は百戦錬磨の猛者であった。それが、女に討たれたなどにわかに信じられようか。

「辰は、どれほどの人材をそろえているというのだ……」

 劉善は思わずへたりこんでしまった。元来は臆病な性質であった。それでも反乱を起こせたのは、青龍刀の武将がいればこそだった。彼ならばいかなる乱戦をも乗り越えて、突破口を開いてくれると思っていたのに。

「こうなってしまっては仕方ない、頼みの綱は孫健殿じゃ。それまでどうにか持ちこたえるのじゃ」

「御意!」

 家臣らは一礼をして、持ち場へと駆けた。

 そうしている間にも辰軍は城へと怒涛のごとく迫り、迫りながら梯子や先のとがった丸太を用意し、城攻めに取り掛かり。

 ついには城にいたると同時に取り囲んで、梯子を城壁にかけ、先のとがった丸太で城門を突いた。

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