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戦場 一

 天を突くかと思われる轟音が響く。

 軍靴、馬蹄は地を蹴り。鉄甲の甲冑ぶつかり合い。白刃閃き血が飛び散って。

 そこは戦場だった。

 辰に反旗を翻した反乱勢力が挙兵し、それを辰の軍勢が迎え撃ち。戦争が繰り広げられているのだ。

「進め、進め。勝てば褒美は思いのままじゃぞ!」

 辰の将軍が馬上から将兵たちに喝を入れる。だが反乱軍とて負けてはいない。

「帝国・辰を打倒し、我が母国・燭を復興させるのだ!」

 と、反乱軍を率いる武将は叫び、将兵に祖国復興の悲願を訴えていた。

(辰だ祖国だ、そんなこと知るもんか!)

 白刃閃く中を、一陣の豪風が駆け抜ける。これなん大剣を振るう源龍であった。

 源龍が大剣を一振りするたびに、敵兵は甲冑ごと骨肉を砕かれて見るも無残な肉塊になってゆく。

 その隣には龍玉。迫りくる白刃をたくみにかわしながら、一瞬の隙を突いて敵兵を斬ってゆく。

 このふたり、辰の正規兵ではない。傭兵として戦争に馳せ参じたのだ。これもすべては、食い扶持を稼ぐため。

 そんな傭兵は源龍に龍玉以外にもごろごろいる。辰は人民から搾取した金の豊富さにものをいわせて、多数の傭兵を雇って兵力の増強をはかっているのだ。

 虎碧といえば、後方で待機している。龍玉のはからいもあって、虎碧は傭兵として参戦せず、炊事などの雑用をこなすのだった。

「おっ?」

 戦場を駆け抜ける龍玉の視線の先に、怒涛の勢い馬を駆けさせ突き進む反乱軍の武将があった。髭を豊かにたくわえた威厳ありげなその武将は、大長刀おおなぎなたを振るい辰の将兵を血祭りにあげてゆく。

(ほうほう)

 よくよく大長刀を見れば、豪奢な飾り付けがされており、その血に濡れた長刀の肉厚も分厚い。

(これが世に言う青龍刀!)

 途端に興味が湧いた。青龍刀を扱うほどの剛の者であれば、それなりの武将であろう。実際、行く手を阻む辰の将兵をなぎ倒し、向かうところ敵なしである。

「これは、討てば大手柄だね!」

 だっ、と青龍刀の武将めがけて駆け出す。

「あ、こら、そいつは俺が狙ってるんだぞ!」

 源龍も同じことを考えていたようだが。一瞬の差で龍玉に先んじられてしまった。それに気づいた青龍刀の武将は、かっと目を見開きこちらに向かってくる龍玉を目にした。

「や、女か!」

 少し驚いたようだが、

「か弱い女の身でありながら……。じゃが戦場に身を置くのならば覚悟はできていよう!」

 と、一切の容赦をする様子もなく、突っ込んでくる龍玉へと馬を駆けさせながら、「えおう」と青龍刀を振るった。

 青龍刀の切っ先が龍玉の頭上まで迫ったが、脳天を割ったと思われるところまで振り下ろされた時には龍玉の姿はなかった。

「やッ!」

 武将は驚き、咄嗟に上を見上げれば。龍玉は素早く跳躍して宙に舞い、武将を見下ろしていた。龍玉が宙を舞っているかと思われた刹那、きらりと光るものが投げつけられた。と、思う間もない。それが剣であることに気付くと同時に。剣は武将の鼻から後頭部までを貫き。

 武将はよろけて、青龍刀もろとも落馬し。ぴくりとも動かなかった。

「やったあ!」

 着地した龍玉は、武将の首を獲る、ことはせず。まっすぐに青龍刀まで駆けて素早く拾い上げ、意気揚々と掲げた。

「これあたしのもの!」

「なんじゃそりゃ!」

「へへーほしくてもあげないもんね」

 呆れる源龍に龍玉はぺろっと舌を出す。

 それから龍玉は青龍刀を手に入れてよほどうれしいのか、ぶんぶんと振り回して反乱軍の将兵をなぎ倒してゆくのであった。

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