旅は道づれ 五
やがて村に着き、三人は宿に駆け込んで、その晩はぐっすりと眠った。
とくに龍玉と虎碧は一日に何度も命の危機にさらされた緊張感が解けたのと疲れから、泥のようにぐっすりと眠った。
翌朝、宿の食堂で源龍が朝飯を食っているところに、ようやく起きた龍玉と虎碧が来て、同じ卓に座った。
そこで互いに改めて自己紹介、をするわけでもない。源龍はふたりに興味なさそうに飯をがつがつと口の中に放り込んでいる。
源龍の足元には大剣が横たわって。ほかの客たちがおそるおそる眺めている。龍玉も虎碧も、源龍の存在のためにこの食堂にそれとなく緊張感が走っていることを察していた。
「おやじさん、あたしらにも」
と朝飯を注文し、先に出された水をすする。
「これからどうするんだい、源龍さんよ」
龍玉は腕を脚を組み源龍を見据えて言った。胸の切れ目からのぞく胸の谷間にくわえて、脚を組んで裾の切れ目からむっちりとした太ももがのぞいて。客たちの視線は思わずその方へ向けられる。
同時に、三人の関係に対し、
(いいなあ、女ふたりづれかよ)
と、あらぬ妄想をめぐらせていた。
それはともかく、龍玉に問われて源龍は箸を止めて、
「そうだな、第六天女のくそあまもいつ出るかわかんねえし。食い扶持稼ぎに傭兵でもするつもりだ」
「傭兵、ね」
「言っておくが、お前らの分はお前らで稼げよ」
「言われなくてもわかってるさ」
話を聞いている虎碧は穏やかではない。いままで武芸の腕を生かして用心棒稼業をしながら食い扶持を稼いでいたが、相手のとどめをさすのはいつも龍玉で虎碧はその援護をしているにすぎない。
どうしても、相手が殺生を好む悪人でも、いかなることでも、人の命を奪うことができないのだ。
それを龍玉が「手を汚すのはあたしがやるよ」と、とどめをさし。それで報酬はきちんと折半している。
(龍お姉さんに悪いな……)
と後ろめたい気持ちをいつも感じている。
きのう屍魔と戦えたのは、相手がすでに死んでいるから、どうにか本気を出すことができたわけで。これが生きた人間であったら……。
やがて飯が来てふたりは箸を動かしてもぐもぐと食う。腹が満たされてゆき、心にもゆとりができてくる。
「そうだねえ、あたしも傭兵でもするかねえ」
すこし箸をとめて、ぽそっと龍玉はつぶやいた。虎碧も箸をとめてしばらく無言で龍玉を見て、
「龍お姉さん、わたしも……」
と言う。
「あんたはいいよ」
「でも」
「言ってるだろ、手を汚すのはあたしがするって」
「いつも龍お姉さんばかりに悪いわ」
「やめとけ」
話の間に入る源龍は、
「足手まといになるだけだ。龍玉の言う通りおとなしくしていろ」
と、にべもない、が。
「あー……」
源龍はふと虎碧の碧い目を見た。
「ああ、もう、仕方ねえ。お前らの分も稼いでやる。そのかわり、龍玉、おめえしっかりと虎碧を守ってやれよ」
「え?」
「第六天女のくそあまどもは虎碧の碧い目がほしいんだろう。なら死んだら元も子もねえ。だから、死なれちゃこまる」
「へえ、源龍、あんたいいこと言うね」
感心したように龍玉は源龍を見つめて。虎碧は戸惑った様子を見せた。
「よしわかった。でもただじゃあたしも寝つきが悪くなるから、源龍、さかったらいつでも遠慮なくあたしを抱いていいよ」
その言葉に、源龍のみならず食堂にいた人々は総じてずっこけてしまった。




