旅は道づれ 三
「馬鹿なことを」
べっ、と唾を吐き源龍は大きくため息をつき。龍玉はその様子がおかしくて「ひひひ」と笑っている。
「それより……」
虎碧はようやく立ち上がって、身体にまとわりつく埃をぱんぱんと手でたたいて払いながら、
「荷物を取にいかなきゃ。村に置きっぱなしで」
と、言うと、龍玉は「ああ、そうか」と笑うのを止めて、あたまをぽりぽりかいて面倒くさそうなそぶりを見せた。
荷物には金やちょっとした食料など旅にかかせないものがある。しかし、
「屍魔のやつまだいるんじゃない?」
「うーん」
龍玉は腕を組んで顔をしかめて村で屍魔と対峙したときのことを思い出し、虎碧も頬を軽く指でついて考える。
あまりの慌てて何も持てずに村から飛び出していまは無一文だ。これでは旅をつづけられない。
虎碧が思案にくれていると、龍玉ははっと何かを思いついたようで、
「ねえ」
と源龍に声をかける。
「なんだ?」
「一緒に村に来てくれないかい? まだ屍魔どもがいたらやっかいだからさ」
「俺に用心棒になれってか?」
「まあ、そういうことになるねえ」
「かまいやしないが、用心棒ってなら、ただじゃないぜ」
「わかっているよ」
と言いながら龍玉は胸の切れ目を指で広げて胸の谷間を見せる。
「お礼はこれ」
源龍は思わず二度目のずっこけをかましてしまった。それにしても、なんという己の安売りであろうか。
虎碧も見ている方が恥ずかしいとばかりに顔を手で覆っている。
(こういうのを淫売というのか)
龍玉に呆れながらも、源龍は虎碧を見る。第六天女は虎碧と一緒にいろと言った。碧い目がほしいから彼女の前に必ずあらわれるから、と。
「ちょっと!」
「ん?」
「この子は駄目だからね!」
険しい顔をして龍玉は源龍を睨んでいた。何か勘違いをしているらしい。しかしその目は真剣だった。
「心配しねえでも、お前らには手出ししねえよ」
その目を見て、ちょっと、心が動かされたのをおぼえた。このふたり、どういういきさつで一緒に旅をしているのか知らないが、お互い支えあって生きているらしい。
「まあ……」
源龍はため息をつきながらふたりを交互に見て言う。
「第六天女のあまはその碧い目がほしいらしいしな、そうだな、一緒にいてもいいぞ」
「よし、交渉成立」
龍玉はうんうんとうなずき、
「行こう」
と虎碧の手を取って村に向かって歩きだし。その後ろに源龍がついていった。




